第187話 告 白
「まず最初に、この話は絶対にこのメンバー以外に口外しないこと、これは全員に守ってもらうわ」
キャサリンが、いつになく深刻な表情で話し始める。
ラジワットを、蘇らせるかのような事を言い放った、彼女の口は、一体何を語ると言うのか。
「まず、とても言いにくいことなんだけど、私はこの世界の人間ではないわ、そしてフェアリータちゃん、あなたもそうよね」
その一言で、全員の視線が幸に向けられた。
特に、サナリアとセシルであった。
これまで、何ら違和感なく西タタリア語で話が出来ていた。
確かにキャサリンは綺麗な言語であった反面、幸の言語には少し訛りを感じてはいたが、許容範囲である。
「ちょっとキャサリン、どうしたのいきなり!、フェアリータちゃんは一体何だって言うの?、そんな魔物のように言っては、フェアリータちゃんが可愛そうだわ」
「魔物・・・・そうね、そうとも言えるわね、フェアリータちゃん、あなた、巨人やマリトちゃんの治療に使った龍脈は、どこで習得したことなの?、それと、その異様に早い足、貴女はどうしてそんなに走るのが早いの?」
幸は言葉に詰まってしまった。
たしかにそうだ、考えてみれば、どうして、と聞かれて、何一つ答える事が出来ない。
「ちょっと、じゃあ、フェアリータちゃんは、何処から来た、誰なの?」
「そうね、それは本人から聞きましょうか」
幸はかなり緊張していた。
これまで、異世界人であることを誰にも言っては来なかったからだ。
他ならぬラジワットの秘術を使って、この世界に来た事を誰かに言ってしまえば、ラジワットに迷惑がかかると思っていたからだ。
・・・しかし、そのラジワットも、今はこの世の人ではない。
「・・・そうですね、ここに居る方々でしたら、もう話してもいいと思いますので」
そう言うと、幸はこれまでの経緯を話し始めた、自分は異世界の日本と言う国で生まれた事、そこで助けてくれたラジワットに連れて来れらて、この世界にやって来た事、なぜかラジワットだけが、幸の能力に気付いていた事。
「・・・それじゃあ、フェアリータちゃんは、・・異世界人ってことなの?、ねえ、異世界ってどこにあるの?」
「私にも解りません、第一、どういう仕組みで来たのかも、私、知らないんです」
そう、本来時空間転移には、専用の装置が必要であるが、ラジワットはそのような機械的なものを使わずに、幸をこの世界へ連れて来たのだ。
その事は、キャサリンも非常に疑問に感じている内容でもあった。
「そうね、ラジワットさんの時空間転移方法は、正直私でもよく解らないレベルの秘術だわ。まさか装置を使わずに異世界を行き来することが出来るなんて、私の知る限りでは「管理人」くらいしかその方法は知らないと思うもの」
「誰ですか?、その管理人って」
「・・・そうね、その話をしてしまえば、管理人をここに呼ぶことになってしまうわね、だから、その話はここではもうしない方がいいわ、覚えている?、私達異世界人は、この世界では異物なんだって言ったこと」
そういえば、キャサリンは山賊の村に宿泊している頃、そんな事を言っていた気がする。
異物・・・そうだ、自分はこの世界の人間ではない、しかし、ここでもう3年以上も暮らしている、いまさら異物だと言われても、それはとても悲しい事だ。
「私達が異物だとして、それがラジワットさんとなんの関係があるんですか?」
「・・・そうね、ここが一番重要な話だわ、私とあなた、この二つの異物でないと、この世界に生じた歪みを矯正することは出来ないわ」
「矯正?」
「そう、この世界は、本来あるべき可能性とは別の、いや、可能性の薄い世界に舵を切り始めている、これは修正の必要があるわ」
「修正しないと、どうなるんですか?」
「そうね、存在がどんどん希薄になって・・・最悪は、消滅する」
一同、その話が出た途端、その消滅の意味が解らず、恐怖の限界を超えてしまった。
「おいキャサリン、そんな物騒な話、どうしたら矯正できるんだよ、俺たちで何かできる事はあるのか?」
「残念だけど、他の皆では無理ね。だからそれが出来るのが、フェアリータちゃん、あなただけなの」
「それで、ラジワットさんを生き返えさせることができるんですね」
「・・・・・そうね、表現として、生き返えさせるのとは少し違うんだけど、・・・そう、彼の生きている世界線に、戻す事は可能よ、いや、むしろ生きている世界に戻さなければいけないわ」
「なんだよ、それならフェアリータがその秘術を行えば、全ては丸く収まるんじゃねえか、脅かすなよ」
マッシュは、キャサリンにお道化てそう言うが、当のキャサリンは、真剣そのものである。
「私、やります、何だってやります!、ラジワットさんを助ける事が出来るなら!」
一同に異議など無かった、しかし、キャサリンの表情は依然沈んだままである。
「・・・・フェアリータちゃん、ラジワットさんが生きている世界線に戻すには、条件があるわ、それも、あなたにとって、とても辛い条件が」
キャサリンの一言は、再び部屋の中に、緊張を走らせるものになった。
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