第184話 メイドとして

 日が落ちて、すっかり暗くなったサナリアの部屋は、メイドすら寄せ付けず、暫く涙に濡れる二人によって占有された。

 

 幸も、これまで大勢殺害してきた。ドットスの兵士を、ワイアットの部下達を。

 それはもう、どうしようもない事実だ。


 だと言うのに、サナリアは本当に善人だと思う。

 どうして自分なんかのために、これほど親身に泣いてくれるのだろうか。

 サナリアは、以前よりも小さくなったように感じる。

 いや、単に幸が大きく成長しただけなのだが、以前はもっと母親のように、姉のように、包容力を感じたが、今のサナリアは、自分と同じ目線に感じられた。

 きっと、サナリアも色々抱えいるに違いない。

 そんな人間同士だから、この抱擁は少し懐かしく、落ち着く。


「ねえフェアリータちゃん、今日はあなたを驚かせようと思って」


 まだ半泣き状態のサナリアが、賢明に笑顔を作り、幸を励まそうと、何かを画策しているようだった。


「あの、サナリアさん、私と一緒に捕虜になったセシルという女性剣士とマルスル大尉と言う軍人は、今どうしているのかしら」


「マルスル大尉・・・ちょっと解らないから聞いておくわね、セシルの方は、大丈夫、近くに呼んでおいたから」


 どうやら、サナリアは幸に近しい人物を集めようとしているらしい。

 どうしてサナリアと言い、ヨワイドと言い、自分のためにそこまでしてくれるんだろう、と思う。


 そうして、幸はサナリアに手を引かれ、別室へ呼ばれた。

 城内では、捕虜と王妃が親しくしている事は、絶対の秘密だ。

 そのため、幸は今、王妃付のメイドの服装に扮していた。


「あら、意外と似合うわね、もうこのまま私の所に居たら?」


 悪戯っぽくサナリアが笑う。

 そうだ、前にもこんな事を考えた事があった、まだこの世界に来たばかりの頃、この世界で生きて行くために、ラジワットにメイドとして雇ってもらえないか、と。

 あの頃は、まさか自分がここまでラジワットを好きになるとは夢にも思っていなかった。

 そんな頃もあったのだ。


 別室のドアが開き、薄暗いその部屋には数名、既に居るようだ。


 まず、セシルの姿が目に入った・・・・セシルも、幸と同じメイド姿だ。

 ・・・なんだか、とてもよく似合っている。


「フェアリータ、久しぶりだな」


 一番奥に座っている人物、それは懐かしいマッシュの姿である。

 その横には、自分を王都へ連行したワイアットも。


「・・・マッシュ国王陛下、お久しゅうございます」


 幸はマッシュの前に跪き、深々と首を垂れた。


「よせよフェアリータ、せっかく人払いをして、俺たちだけの空間を用意したんだ、ここでは俺に気兼ねをするな」


「いえ・・・どのような事情であれ、敵国の国王陛下、私ごときが対等にお話しできるお相手ではございません」


 マッシュは大きくため息をついた。

 サナリアから聞いてはいたが、やはりマッシュが知っているかつてのミユキとは別人のようになっている。

 多分、自分がいくら心を開いても、きっと以前のように幸は心を開いてはくれない。


 そう思ったマッシュは、更にもう一人の人物を奥から呼んだ。


 誰だろう、まだドットスに知り合いが居ただろうか?。

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