第181話 再 会
サナリア・メイ・ドットス
ドットス国王であるマッシュに嫁ぎ、早3年が経つが、国民が欲する次期国王の懐妊には、未だ至っていない。
それが王妃サナリアの心を、日に日に追い込んで行った。
王妃の一番の仕事、それは国王の世継ぎを生む事。
現代の日本では考えられないほどに旧態依然としたこの環境の中に、サナリアは身を置いている。
そんな息苦しい生活にあって、彼女を精神的に支えていたのは、夫となったマッシュや、ワイアット、キャサリンと共に冒険に明け暮れた懐かしい日々である。
王妃にとって、そんな思い出と当時の仲間は、掛け替えの無い親友と言えた。
しかし、かつて共に旅をした仲間であるラジワット・ハイヤー死亡の噂を聞き、サナリアは心から悲しみに暮れていた。
それは、故人を偲ぶだけではなく、ラジワットを心から愛していた幸の事を想うと、彼女の悲しみに想いを馳せ、サナリアの心も大いに痛んだ。
今すぐにでも駆けつけて、慰めてあげたい、抱きしめてあげたい、そう思っていた。
サナリアにとって幸は、本当の妹のように愛おしい存在である。
そして、その情報は突然舞い込んで来るのである。
「ちょっと、本当なの?、フェアリータちゃんが、ドットスに居るって?」
「いると言っても、普通のビジターではない、よりによって、オルコ軍の捕虜として連行されたんだ」
「ちょっと、何言っているのよ、捕虜だろうが何だろうが、フェアリータちゃんはフェアリータちゃん!、ねえ、違う?、どうしちゃったのマッシュ、昔の貴方だったら、そんなまどろっこしい事、言わなかったわよ」
「いいかサナリア、俺だって同じだ、フェアリータの事が心配だから、ワイアットに無理を言って王都に連行させたんだぞ。第一、俺たちとラジワットやフェアリータが友人だという事は、国内では絶対の秘密だ、国王の立場でも、これが限界なんだよ」
サナリアだって、その事情は解っていた。
それでも、2年間も戦力化のために奔走し、ただラジワットを救出しようと努力していたことも、手に取るように解るし、その先に、ラジワット処刑の知らせがあったことで、どれだけ悲しみのどん底に突き落とされたことか、考えただけでも心が張り裂けそうになる。
「サナリア、お前に国王として命ずる、オルコ帝国軍の捕虜を別室にて尋問するように」
「・・・・ありがとう、マッシュ、やっぱり貴方は・・貴方だわ」
サナリアは、逸る心を抑えながら、別室へ急いだ。
この先に、フェアリータがいる、そう思うとサナリアの歩幅は意識せずとも大きくなって行く。
王妃の従者も大変だ、重いドレスを引きずりながら、この競歩に付いて行かねばならない。
早く抱きしめてあげたい、なんだか、そうしないとフェアリータが取返しの付かない事になってしまうような気がした。
そして、別室の扉を開けた時、サナリアは自身の目を疑った。
そこには、あの健気で儚げな少女の姿は無く、居るのは屈強な女戦士一人であった。
帯剣こそしていないが、革と鉄で出来た頑丈な防具に身を包み、女である事を否定するかの如く、その色気を堅く防具に押し込むように、彼女は戦闘姿勢を崩していなかった。
そしてその眼は、まるで光を失い、飢えた狼のように鋭く、その表情に優しさはかけらも無かった。
「あなた・・・フェアリータちゃんで・・・いいのよね?」
「・・・・・どうしてそんな事を聞くの?、サナリアさん」
見た目はまるで別人のようであったが、口を開けば、あの懐かしいフェアリータである。
それが余計に、サナリアの心を締め付けた。
そこには悲しみがあった、不幸があった、我慢があった。
それが、健気でならなかった。
「ねえ、貴女を、抱きしめても?」
「・・・・・・」
立ち尽くし、まるで捨てられた子犬のような目でサナリアを見つめる幸。
サナリアは、思わず駆け寄り、幸を強く抱きしめた。
ああ、姿は変わっても、フェアリータだ、あの、少女だったフェアリータがここに居るんだ。
「フェアリータちゃん、辛かったね、可愛そうに、あなた、そんな目をして、辛かったでしょうに・・・」
幸は、どうしてサナリアがこれほど涙するのかが、よく解らなかった。
それほど、ラジワットを失ったことで、幸の精神は正常性を失いつつあったのである。
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