第178話 したことの全てを

 幸は、急拵えではあるが取調室に入り、先ほどの偽司令官に迫った。


「あなたも随分と度胸が座っているわね、司令官を見たことも無いのに、司令官役をするなんて」


「・・・司令官は、捕虜になっても厚遇を得られると聞く、私は今現在、ここの司令官だ、それは間違いない・・・厚遇は期待出来るのだろうな」


 まったく図々しい兵士だ。

 さすがの幸も、呆れてしまうほどに。

 

「それは、あなたの返答次第ね、ラジワット・ハイヤー大佐を知っているわね、今、どの牢屋にいるの?、直ちに解放しなさい、最優先事項よ」


 すると、偽司令官は、どうもラジワットのことが理解できていない様子だった。

 そして、分からないなりに、賢明に答えを探す素振りを見せる。

 そんな時、取調室にセシルが入って来る。

 ・・・セシルにとっても、兄や父の仇、状況を知りたいのだろうと思い、幸は特に声をかけなかった。


「あなたたちの交渉材料よ、どうして捕虜の名前も把握できていないの?、今いる捕虜の居場所を、全て示しなさい!」


 強い口調で偽司令官に迫る、幸がこれほど声を荒げるのは珍しいことだ。

 そこで、沈黙を守っていたセシルが口を開く。


「・・・さあ、あなたが知っていること、したことの全てを、ここにいる巫女様に話しなさい」


「・・・・捕虜は、いない」


 幸は、この偽司令官が何か言い訳をしているように思えて腹が立った。

 今この瞬間ですら、ラジワットは孤独な独房で堪え忍んでいるのだから。


「捕虜はいないって、どう言うこと?、まさか、別の所へ護送された?」


「・・・・いや・・そうではない」


 すると、セシルが偽司令官の頬を、思いっきりひっぱたくではないか。


「いい加減にしなさい、あなたたちがしたことの全てを、巫女様に話しなさいと言っている、知らないとは言わせないわ!」


「ねえセシル、どうしちゃったの?、捕虜への暴行は違法行為だわ、落ち着いて」


「フェアリータ様、ここに居る男は、単に偽司令官ではない、私にとって、兄の仇なの」


「この人が、バシラさんを・・・」


 幸も一瞬、怒りに任せて目の前の男を殴りたい衝動に駆られた。

 この男が、こいつらがバシラを。

 

「わかったわセシル、この男をあなたに預けるわ、どうにでもして頂戴」


「おい、捕虜としての、司令官としての厚遇はどうした?、国際慣例に反する行為だろ!、なあ、頼むよ、助けてくれよ」


 みっともなく命乞いをする男を見て、こんな奴にバシラは殺されたのかと思うと、益々腹が立つ幸であった。

 命乞いをする男を、セシルは捕虜のいる場所へ案内させた。

 あれ?、さっきここに捕虜はいないって、言っていたのに。

 やっぱり嘘をついていたのか、と幸は少し安堵した。


 偽司令官が案内した場所はタタリア軍キャンプから少し後方の丘付近であった。


 こんな所に、捕虜が?


 見たところ、建物らしきものは一切ない、広陵とした場所だ。

 ただ広いだけで、草木もほとんど生えていない。


 そんな平原の一角に、数個の土盛りに石が置かれた何かが存在するだけ。

 

「さあ、話なさい、ここであなたたちが、一体なにをしたのかを」


「ねえ、どう言うことセシル、こんな所、なにも無いじゃない」


「なにも無くは

無いのよ、ねえフェアリータ様、これからこの男が言うことを、しっかり聞いて頂戴」


 すると、セシルは男を強く蹴り、自供を迫った。

 本当にセシルは、女族長となったのだと痛感する。

 しかし、いつものセシルとは少し違う・・・なんだろう。

 そして、偽司令官だった男は、蹴られた痛みに耐えながら、ここでなにが起こったのかを語り出すのである。

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