第177話 これほどの誉は

「どうも、ここまでのようですな、ワイセル大尉」


「ああ、最後の戦いが、貴君のような猛者とであって、私も誉だ」


 ワイセル大尉と、軍師のマルスル大尉の二人は、互いに面識のある仲である。

 と言うより、マルスル大尉は、叩き上げで大尉まで昇進した、オルコ帝国軍では有名人である。

 皇帝が、幸の部下にと直接人事を動かしたほどの古参の手練れ。


 ワイセル大尉も、貴族出身の出世コース、どちらかと言えば、ラジワットのハイヤー家やヨワイドのカウセルマン家のように、貴族の中でも上位の生まれである。

 本来二人は、階級こそ同じであれ、同じ空間で戦うことなど無いほどに身分の差があったが、お互いが認め合うほどに優れた軍人である事には変わりないのである。


 そんな二人が、奇しくも数名の味方と敵の深部で孤軍奮闘する。

 

 普通に考えれば、それは恐怖しかないところであるが、この二人は、この状況を楽しんでいるようですらあった。

 それは、騎士として生きて、任務に命を捧げる者として、これほどの誉は無いと、同じ考えから来る衝動と言える。


「最後は、何人道連れにしまようかな?」


 マルスル大尉が、笑いながらワイセルに問う。

 その問いに、笑いながら答える。


 二人の剣は、どんなに疲れていても、的確に敵兵の急所を貫く。

 あれほど居た敵兵も、流石にこの二人の剣術では、消耗が激しい。

 それでも多勢に無勢、どうやら限界が近付いていた。


「貴君ら、最後は、オルコ帝国軍人らしく、立派に果てよ、最後まで剣士らしくあれ!」


 15名の剣士たちは、皆、清々しい表情で、闘志を燃やす。

 オルコ軍人で良かった。

 全員がそう思い、最後の一手を入れようとした、その時である。


 恐ろしく駿足な何かが敵兵を横切ると思った次の瞬間、数名が地面に崩れ落ちるではないか!。


「マルスル大尉、大丈夫?、まだ生きてる?」


「フェアリータ様・・・どうしてお戻りに!・・・」


「違うわ、戻ったのではない、助けに来たのよ!」


 そう言うと、幸は更に短剣を振るい、タタリア兵を次々を倒して行く。

 疲労困憊、もはやこれまでと思っていた15名の剣士たちも、再度奮起し敵に立ち向かって行く。


 こうして、セシルたちレジスタンスの協力を得て、奇跡的に状況を回復させた幸達は、更に後方に残置していた20名と合流し、完全に駐屯軍を掌握下に置くに至ったのである。


「フェアリータ様、この者達は・・・」


「ええ、私のお友達、紹介するわ、セシル・ロウメイ、この先の村の・・・長よ。


「この女性が・・・村長?、本当に?」


「ええ、2年前に村がタタリア軍に制圧されていた所を、ラジワット様とフェアリータ様に助けて頂きました。お二人は、私共の恩人です」


「・・・巫女職殿は・・・・色々なお知り合いが居られるのですな」


 マルスル大尉が、思わず苦笑いしてしまった。

 まさか、自分の上司が、敵国タタリアに友人が居るとは、夢にも思わなかったのである。


 友軍が、手際よくタタリア兵と偽司令官を捕える。

 そして、聞かなければならない事があった、一番大事な事を。


「さっきの偽司令官を、取調室に呼んであります、フェアリータ様、直接尋問されますか?」


「ええ、ロンデンベイル師団に伝令を出して、本隊をこの駐屯軍の居る線まで推進させて。私はラジワットさんの居場所を聞き出すわ」


 幸のその一言を聞いて、セシルが表情を変える。

 一体、何がそれほど気になる事なのか。


 そんなセシルの異変に、幸は未だ気付いていないのである。

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