第176話 きっと、滅茶苦茶にされる!

 軽装になった幸の大事な部分に、男たちの粋り立った欲望が向けられる。

 

 嫌だ、怖い、本当に怖い!。

 心の中で、こんな怖い思いをするなら、もういっそ、死んでしまった方が良かったのでは、と自暴自棄になる。


 男たちの欲望に満ちた手を、幸は思わず考え無しに払ってしまう。


「・・・なーんだ?、誘ってきたのは、お前じゃないか?」


 ああ、もう駄目だ、きっと自分は狼の群に投げ出された子羊に違いない。

 喰われる、きっと、滅茶苦茶にされる!。


 そう思った時だった。


 目の前に迫って来た兵士の悪意が、突然固まったのだ。

 何が起こったのか、よく解らない幸であったが、兵士が固まったままゆっくり倒れるのを見た時、兵士が弓で射抜かれた事にようやく気付くのである。


「後続の部隊?、助かったの?、私」


 ピンク色に色めきだっていタタリア兵たちは、急速に戦闘モードに切り替わり剣を抜いた。

 しかし、一度緩んだ意識が、簡単には戻らない。

 統制を失った数十名の兵士達は、突然の襲撃に恐怖しつつ、次々と倒れて行った。

 幸は思った、これは自軍ではない。

 なぜなら、今回連れてきた巫女職室の要員30名は、弓を装備させていないのだから。


「・・・フェアリータ様、やっぱり、フェアリータ様だわ、よくまあ、ご無事で!」


 幸は、目を疑った。

 聞いた事のある声、美し女性の声。


 セシル?!


 そうだ、山賊村の族長の娘、セシルの声だ。

 という事は、自分を助けてくれたのは、セシルたち山賊?、


「フェアリータ様!」


 セシルが、震える幸を強く抱きしめた。

 安心して、思わず膝が崩れそうになる幸。

 今まで色々な事があったが、人間は本当に怖い時に、理性で身体を動かす事が出来なくなるらしい。

 セシルに思い切り抱き着くと、ようやく安堵の涙が出て来た。


「セシルさん、あなた、どうしてこんな所に?」


「私達は、2年前にラジワット様とフェアリータ様に助けられた後、タタリア軍の抵抗勢力として、レジスタンス活動をしていました」


「じゃあ、バシラさんもここに?」


「・・・いえ、兄は、タタリア軍との戦いで、半年前に・・・」


「え?、バシラさんが・・・まさか・・」


 てっきり、村を復興させて、元気に暮らしているとばかり思っていたセシルやバシラが、抵抗活動をしていたなんて、夢にも思わなかった。

 再会したセシルは、元々受け身な印象の乙女であったが、2年前にラジワットが救出した時には既に駐屯軍司令の慰み者になっていた。

 そんな自分に嫌悪して、セシルは女を捨てていた。

 幸と同様に、美しい女性の身体を防具に封じ込め、一人父と兄の仇を討つべく、女戦士として、村の男たちと抵抗運動を主導するリーダーとなっていたのである。


「ねえ、セシルさん、お願い、未だ中に、私の仲間が孤立しているの、助ける事は出来ないかしら!」


 セシルは、幸が現在、軍に身を置く立場であることを、瞬時に察すると、再び女剣士の表情に変化するのである。

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