第173話 ここの司令部将校たち・・・弱いわ

「一旦、引きますぞ、フェアリータ様!」


 マルスル大尉が、剣を振り回しながら幸にそう言う。

 さすがは叩き上げで出世しただけの事はある、剣術の腕前は、粗削りながら相当のものだ。


「ねえ、少し変じゃない?、ここの司令部将校たち・・・弱いわ」


「ええ、そうですね、多分・・・司令官だけではなく、司令部要員も含め、全部偽物なんでしょうな」


「どういう事?」


「一旦、引いた後に、詳しくお話しします!」


 そう言うと、マルスルは一太刀当てると、幸達と共に、幕舎の外へ出た。

 いくら弱いと感じても、ここは敵陣の最深部、敵は沸いてくるように現れる。

 その度に、進路を変えて、逃げ惑う。

 いつしか、自分たちが来た道すら解らなくなるほどに、迷路のように複雑な駐屯軍の中で、帰路が解らなくなってしまった。


「これは・・・参りましたな、キリがありません」


「そうね・・・せめて、残して来た20名と合流出来ればいいのだけど」


「・・・・」


 マルスル大尉は、少し考えていた。

 仮に、20名が合流したところで、多勢に無勢、勝ち目はない。

 珍しく、活路を見出せないマルスル。

 そんな時、幸を呼ぶ声がするのである。


「フェアリータ様!、フェアリータ様!、私です、ワイセルです!」


 見ると、最初に軍使として派遣されたオットウ・ワイセル大尉が、囚われているのが見えた。

 中に、同行していた下士官4名も健在のようだった。

 マルスル大尉が、剣で施錠を叩き割ると、幸は手際よくワイセル大尉たちを救助した。


「良かった!、心配していたのよ!、まさかこんな事になるなんて」


「フェアリータ様、奴らは偽物です!、本物の軍司令官は・・・」


「ワイセル大尉、マルスルです、よくご無事で。そうですか、偽物とご理解されていましたか」


「ああ、流石に私も貴族の端くれだからな、あれは無いよ。酷い軍装だ、素人も甚だしい」


「で、拘束されたのですな」


「ああ、私達も同じく切り掛かり、逃げ出したのだが、こちらも5名の勢力では、成す術がなくてな。フェアリータ様、ここへはどのくらいの人数で?」


「ええ、10名と、後方に20名ほど」


「・・・10名・・・そうですか」


 ワイセルは、少し考えつつ、合流した10名と併せて15名でここを脱出するには、恐らくギリギリの人数であることを察した。


「私も、ギリギリかと」


 マルスルも、それは同意見のようだ。

 しかし、躊躇している余裕はない、こうしている今現在も、敵は自分たちを索敵中なのだから。


「行きましょう、私がここの地形を理解しています、出口は解りますので」


 今は、出口が解るだけでも頼もしい。

 先ほどまで、退路が塞がれていたのだから。


 それでも、事態の解決には程遠い状況であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る