第167話 泊まって行くでしょ?
「お帰りなさい!、フェアリータ!」
幸は、思わず立ち尽くしてしまった。
思い出の、あの一軒家、ラジワットと過ごした思い出の家・・・・一度は引きこもった、ラジワットの部屋。
幸は今日、久々にラジワットの部屋で思いにふけようと思っていた。
きっと、決戦を前に、寂しい一晩を過ごし、決意新たに戦場へ赴こうと。
しかし、それは誤算であった、いや、嬉しい誤算である。
思い出の家は、掃除も徹底的になされ、電気も煌々と照らされ、リビングにはご馳走が並んだ。
懐かしいアシェーラの友人たちも家に来ており、当時少年少女だった村の子供たちも、立派に成長して幸を迎えてくれたのである。
逆に驚いたのは、村の友人たちであった。
幸の、その成長ぶりに、一体何が起こったのだ、と言わんばかりに絶句している。
「ねえ、フェアリータ、あなた、何か秘術を使ったの?、あのフェアリータでいいのよね」
女子の一人が、思わず幸にそう言ってしまう。
男子は、例外なく全員が赤面して、モジモジしている。
そんな微妙な空気を打ち破るように、一人の男が入ってくる、カウセルマンだ。
「失礼、邪魔をするよ、フェアリータ」
「邪魔なんて、そんな事ないわよ、あなたも今日はここに泊まって行くでしょ?、ヨワイド」
その場に居合わせた全員が・・・・・固まった!
なんだ、その大人の女性みたいな一言!。
誘ってる?、誘っているのか、フェアリータ。
・・・・・もちろんフェアリータは誘ってなんかいなかった。
そもそも、ヨワイドと幸は、同じ家で2年も過ごしているのだから、幸からしたら同じ家で寝泊りすることは当たり前の事だと思っているし、逆に別の家に寝泊りするのもおかしな話に思えた。
しかし、幸以外の全員が、おかしな事、だと認識していた、勿論、ヨワイドもだ。
顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに横を向く金髪の青年、ヨワイド・カウセルマン。
そして、その場に居る全員が悟るのである、フェアリータって、鈍いのだと。
しかし、そんな空気を一層するような人物が、更にもう一人、ヨワイドの後ろから顔を出すのである。
「・・・・エイセイ・・・どうしてここに?」
そこに立っていたのは、近衛連隊のエイセイ・ブラン曹長であった。
幸の家は、一瞬にして祝賀ムードになり、歓声が挙がった。
カウセルマンは、ブラン曹長に「よくやった」と目で合図を送るが、当のブラン曹長は、一体何の事やらよく解っていなかった。
近衛連隊は、依然連隊長不在の状況であたが、ヨワイド・カウセルマンが副連隊長から、カウセルマン連隊の連隊長へと栄転したことで、新しい副連隊長が、連隊を指揮していた。
今日は、ブラン曹長の婚約者がランカース村にいるとのことから、気を遣ってカウセルマン連隊に同行を命じていたのだ。
真っ赤になって俯くアシェーラ。
幸は、なんだか幸せのおすそ分けを頂いたようで、とても幸福な気持ちになっていた。
「ねえ、乾杯しましょうよ!、この再会に!」
一人がそう言うと、みんな手際よくテーブルに酒の準備を始めた。
そうだ、あの頃、酒を飲む大人に嫌悪感を抱いていた幸も、もうそんな事を感じる年齢でもなくなっていたのだ。
幸がラジワットに連れられ、チェカーラントに来たあの日から、この秋で3年を迎えるのだから。
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