第166話 私、今夜は・・・
「ねっ、見事に復興したでしょ!」
幸の目の前に広がるランカース村は、かつての賑わいを取り戻していた。
電気も復活し、焼けた家々は元通りに復旧している。
種まきの時期なのか、村とその周辺は新緑に彩られ、とても美しかった。
そうだ、ラジワットとこの村を去った時の、まだ春浅い雪解けの頃のランカース村、こんな感じだった。
幸は、胸が一杯になった。
こんな風に、何もかもが元通りになればいい。
あとは、ラジワットさえ、彼さえ無事に戻ってきてくれさえすれば、もう何もいらない。
「わあ、随分大勢なのね、村に入り切るかしら!」
アシェーラが振り返ると、ロンデンベイル騎兵師団が長い隊列を組んでやってくるのが見えた。
チェカーラントの街を出た頃、細い街道を全軍が進むことも出来ず、部隊は分身合撃隊形へ移行した。
それは、数本の街道に別れ、作戦地域で再び合流する作戦方式の一種である。
実は、この越境侵攻作戦に参加しているのはロンデンベイル師団だけではない。
その後方からも、増援部隊やら、支援部隊やらと、総勢3個師団以上の大勢力である。
その数、50000騎と言う、近年の戦いでは一大勢力と言えた。
ロンデンベイル師団を中核としたこの規模は、もはや一個軍と言えるほどの勢力だ。
そのくらい準備しなければ、タタリア騎兵軍団に喧嘩を売ることなんて出来ないだろう。
むしろ、その数では足りないくらい、本気を出したタタリア騎兵軍団は強大である。
それ故、チェカーラントより南の地域には、一般部隊が続々と集結し、ロンデンベイル師団に何かあった場合はトコロテン方式で軍を前に出せるよう、万全の準備が成された。
それほどの規模が大挙して前進してくるのだから、途中の村では大歓迎をしつつ、宿泊と食事の準備で大変な事になっていた。
軍の方も、当然そこは配慮し、一つの村に大軍が占有しないよう、部隊を計画的に分散させていた。
このランカース村には、カウセルマン連隊が世話になる事となっていた。
「まあ、カウセルマン連隊長、ご無沙汰しております」
アシェーラが、畏まってスカートの裾を両手で持ち上げ、一礼する。
「おお、久しいなアシェーラ、聞いているぞ、ブランと婚約したのだな、お祝いをせねばな」
「まあ、なんと勿体ない、恐れ多い事ですわ」
カウセルマンは、優しい笑顔をアシェーラに向けた。
彼女も思うのである、カウセルマン大佐って、こんなに優しく笑う人だったかしら、と。
「ねえヨワイド、私、今夜は・・・・」
ヨワイドは、少し寂しそうな表情を浮かべ、幸の行動を察した。
「ああ、存分に、懐かしんでおいで」
アシェーラは、幸を見つめるカウセルマンが、もはや単なる知人の粋を超えた関係性である事を察した。
そして、カウセルマン大佐を・・・・ヨワイドと呼び、敬語も敬称も付けずに話が出来る間柄なんだという事が、衝撃であった。
「ねえ、フェアリータは、カウセルマン大佐とは・・・・どんな関係なの?」
「え?、どんなって、・・・とてもお世話になっている、恩人よ」
「・・・・ふーん、そうなんだ」
アシェーラは、幸がカウセルマンの気持ちに気付いていない事に、少し困惑していた。
あんな目で女性を見つめるカウセルマンに、フェアリータが気付いていないなんて、・・・罪作りな女だなあ、と、アシェーラは思うのである。
「ねえ、今日はあの家に泊まるんでしょ、私、掃除と準備を済ませたから、問題無いわよ!」
・・・ん?、準備?、なんの?、と幸は思うのである。
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