第155話 大御心
「・・・フェアリータ、皇帝陛下の
カウセルマンは、幸にかなりの無茶ぶりをした。
幸自身も「えー・・・・」と心の中で呟くと、もはやマナーも仕来たりも無く、前へ進むしか無かった。
薄いカーテンのような、シースルー素材を三枚ほど抜けると、最初に侍従の姿が目に入った。
白髪で髭を蓄えた、いかにも堅物なその人物は、幸を見るや耳元でひっそりと囁いた。
「皇帝陛下が、中でお待ちです、行って差し上げなさい、人払いは済んでますから」
人払い?、えっ?、なに?、なんで?
代弁した侍従本人も、その場から退室してしまった。
・・・・・ん?、人払いって、二人っきりになるって事?、なんで?
幸は、なんだか嫌な予感がしていた。
皇帝の巫女・・・・まさか・・ね。
まさか、皇帝陛下の・・・・その・・・お子を・・・授かる的な?
いやいやいやいや!
無い無い無い無い!
第一、私はラジワットさんの奥さんになる・・・予定の、婚約者!
ラジワットさん以外の男性なんて、指一本触れさせないんだから!。
退出の途中、侍従がカウセルマンにも退室を命じた。
退室と言っても、この空間は広すぎて、何処までが部屋かもよく解らない。
「フェアリータ・タチバナ、こちらへ」
細い声がした、少年の声だ。
だが、この声、なんだか気になる。
なんでだろう。
「フェアリータ・タチバナです、あの、入っても?」
「ああ、歓迎する、君をここで、ずっと待っていた」
・・・?、私を?、待っていた?
どうも、ここへ来てから、解らない事が多い、解らないと言うより、謎が多いのだ。
とても不安な気持ちになる、早くこの謁見、終わらないかしら。
そう思っていた幸の目には、驚きの光景が飛び込んできたのである。
「まさか・・・・でも、そんな事って・・」
皇帝は、幸のそんな表情を見て、少し笑った。
「よいのだぞ、人払いはしてある、ここに居るのは私達二人だけだ・・・・それとも、こう言うべきかな・・・ミユキお姉ちゃん!」
幸の目には、再び涙が溢れ出した。
目の前に居る皇帝陛下は、体つきも良く、髪も黒々として健康そのものであるが、その容姿はタタリア山中で死んだマリトそのものである。
きっと、病気をせずに、健康に成長していたら、こんな姿だったろう、そんな理想的な身体のマリト、それが皇帝エリル二世である。
そんな彼から、もう聞くことが出来ないと思っていた、マリトそっくりな声で「ミユキお姉ちゃん」が飛び出してきたのである。
それは、立場や常識を超えて、幸は強烈に欲するかのように皇帝に抱き着いた。
「・・お姉ちゃん、苦しいよ」
「マリトちゃん!、マリトちゃん!、ごめんね、タタリアに置いて来てしまって、本当にごめんね、お姉ちゃん、悲しかったんだよ、本当に、もう、死んでしまうくらいに、悲しかったんだから、マリトちゃん!」
皇帝が苦しんでいても、お構いないしに抱き締める幸。
侍従がいたら、衛兵が居たら、その場で死刑にでもなっていたかもしれない。
そんな中、幸は思いのたけを皇帝にぶつけた。
抱きしめたエリル皇帝の感触は、あのマリトとどこまでもそっくりだ。
幸は、心に開いた穴を塞ごうと、必死にエリルを抱き締めた。
もう、絶対に離さない!
孤独な夜を、もうこれ以上超えるのは、本当に嫌だ。
幸の涙が、エリル皇帝に落ちて行く。
まさか、こんな事があろうとは。
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