第154話 宮 城
皇帝陛下が住まう
その様式は、西洋と東洋が混ざっただけではなく、どことなく西アジアの雰囲気が強く出ていると幸は感じた。
こんな所、自分は一生縁がないと思っていたが、遂にオルコ皇帝エリル二世との謁見の日を迎えていた。
失意の中、幸は帝都オルコアに到着して、未だ二日目の事である。
それまでこの異世界に来てから、一番大きな街でも、あの最初の街チェカーラントであった。
それ以降、旅が続き、要塞都市であるロンデンベイルを経験したが、やはりオルコアの巨大さは尋常では無かった。
とにかく人が多く、大昔から幾重にも都市が重なるように形成されたためか、小さな路地ばかりの、まるで迷路のような都市である。
そんな密集した都市の中央に、一際何もない空間が宮城広場である。
その中央に、巨大な玉ねぎを乗せたような建物が複数乱立する「宮城」が存在する。
幸は、今まさに、その宮城の前で、圧倒されているのである。
「・・・・凄いですね、日本の皇居とは、また違った、威圧感を感じます」
「ほう、フェアリータの居た国にも皇帝が?」
幸は、そのことについて、それ以上答えなかった。
それは、ラジワットの秘儀である、異世界への往復という行為が、何処まで
「さ、フェアリータ、参ろう」
さすがのカウセルマンですら、緊張しているのが解る。
近衛連隊は、皇帝直属の軍隊であるが、だからと言って皇帝陛下が直々に指揮を執るわけではない。
皇帝陛下は、軍に身を置く訳ではなく、軍はあくまで皇帝陛下のもの、というだけである。
それ故に、カウセルマンですら、実は皇帝陛下に謁見をしたことがない。
近衛連隊長の任命権ですら、皇帝陛下ではなく、軍司令官である。
宮殿の中に入った後も、一体どれだけ歩かされるのかと思うほど、中も広い。
そうしてようやく到着した場所で、更に30分ほど待たされ、ベールの後ろに、皇帝陛下が現れた・・・・らしい。
その気配すら感じる事が出来ないほど、皇帝と幸との距離は、離れたものであった。
カウセルマンが、幸に作法をその場で教える。
跪き、首を垂れ、絶対に皇帝陛下を見てはならない、のだそうだ。
この国において、皇帝陛下とは神と同じ。
そのお顔を拝見できるのは、一部の侍従と巫女のみである。
・・・・・巫女?
考えてみれば、自分だって巫女ではないか。
自任した事はないが、ラジワットがそういうのだから、きっとそうなんだろう。
それでも、カウセルマンが見てはいけない、と言うのだから、見てはいけないのだろうと、幸は首を垂れた。
緊張の時間が続く。
皇帝は、自身では言葉を発することなく、自分の意思を側近の
「近衛連隊長代理、ヨワイド・カウセルマン中佐、此度の戦、見事な働きであった」
侍従が皇帝の言葉を代弁して伝えて来た。
その言葉に、カウセルマンも感無量である。
「近衛連隊長不在の中、よく部隊をまとめ、武勲を挙げた、その功績に報い、ヨワイド・カウセルマン中佐を、帝国軍大佐へ昇進させる、併せて特殊任務を付与するにあたり、
凄い!、カウセルマンは遂にラジワットと同じ大佐になったんだ、幸はとても嬉しくなった。
色々世話になっていながら、何もお返しが出来ない中、彼の出世は心から祝福できるものだった。
幸は、これで全ての話が終わったので、カウセルマンと共に帰れる、と考えていたが、そこから予想外の事が起こった。
「そして、フェアリータ・タチバナ、貴君には別で話がある、特殊任務について、及び今後の話についてだ」
幸は、突然の事に、一体どうしたら良いのか、思わずカウセルマンに目で助けを求めてしまうのである。
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