第153話 皇帝エリル二世
カウセルマン家賓客であるフェアリータ・タチバナ。
つまり立花 幸のことであるが、この家での位置関係は、極めて特殊なものと言えた。
当主のカウセルマン公爵と、その妻、現在の妻は二人目で、ヨワイドの母親とは別の人物だ。
ヨワイドの母は、彼が幼い頃に他界しており、後妻となった現妻との間に生まれたのが、エレシーである。
彼女は、ヨワイドが17歳の時に生まれた、そのため、彼女からすれば、生まれた時から大人であったように感じていた。
エレシーは、幼い頃から兄であるヨワイドが大好きで、将来お嫁さんにしてもらいたいと、かなり本気で考えていたほどである。
成長し、兄妹が結婚できない事を知ると同時に、婚約者ヨヨの存在もまた、正確に理解出来た。
ヨヨはエレシーにとにかく甘く、そんなヨヨを、エレシーも嫌いではないものの、大好きな兄の結婚予定者であることが、大問題であった。
ところがエレシーが13歳の多感な頃、兄ヨワイドは突然ヨヨとの婚約を破棄したのである。
さすがのエレシーも、それにはヨヨが可愛そうだと思い、とにかく13歳の少女なりに、一所懸命慰めた。
そんな事があって以来、エレシーとヨヨは大の親友となったのである。
もっとも、婚約破棄と言っても、別の相手が現れた訳ではなく、単に独身主義である、という事もあり、ヨヨはヨワイドの妻の座を諦めることなく、関係は継続したのである。
そんな歪な三角関係に、突如として現れたのが幸である。
カウセルマン公爵家にとって、幸は稲妻のような存在だ。
大きな衝撃をもって現れたのだから。
それまで、エレシー以外に見せた事もない、優しい笑顔を一人受ける謎の少女の存在。
それは、エレシーとヨヨの二人には、衝撃以外の何者でもない。
この時、一番衝撃を受けていたのはエレシーである。
ヨヨは結婚を諦めていないとはいえ、兄は最後まで結婚せず、独身を貫くのでは、との思いがあった。
そうなれば、最後は自分も嫁がず、ヨワイド兄様と一緒に死ぬまでこの屋敷で暮らして行こう、という恐ろしい野望まで持っていたのである。
この世界において、異様なレベルのブラコン。
そんな危険な兄妹関係に、楔を打つ出来事、それが幸の賓客として招いた兄の行動である。
ましてや、皇帝陛下からの勅諭であれば、この国でそれに逆らえる人間は皆無だ。
一体、このフェアリータという少女は何者なんだろうか。
エレシーからすれば、大好きな兄を目の前で
幸とエレシーが解り合える日が来るとは、到底思えないのである。
そんな火花を散らす人間関係に、全く気付かない鈍感男、ヨワイド・カウセルマン。
これだけ戦闘センスがあり、あらゆる事にスマートな彼も、男女の事となると小学生以下のレベルである。
この状況において、ヨワイドは未だ、エレシーと幸が仲良くやっていると思っているのだから。
皇帝エリル二世
謎の多い皇帝ながら、国民からの支持は絶大なものがあった。
先代エリル一世の急死により、僅か10歳で皇帝に即位した孤高の指導者。
しかし、その姿を見た人間は、極めて稀であり、未だ謎多き人物である。
それでいて、皇帝が発する命令は、国政を左右する重大事に、絶対間違わないという不思議な先見の明を持っていた。
隣国ドットスが、先代国王による乱暴な統治により、国内の政治・経済が悪化したのとは対照的とも言える。
そんな皇帝が、幸に対してこれだけ気に掛ける、というのには、当然事情があった。
それこそが、幸がワイアットにも話す事が出来ない、絶対の秘密である。
幸はカウセルマンに、ラジワットから強く皇帝陛下との謁見を申し入れるよう、言付かっていたことを打ち明けた。
もちろんカウセルマン自身も、そんな話をどう処理したら良いかも解らず途方に暮れていたが、意外にも、それは宮内省より直接近衛連隊に告げられたのである、「フェアリータを、
こいうして、幸とカウセルマンは、予想に反して皇帝陛下との謁見を許されるのである。
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