第152話 妹のエレシー
晩餐の席は、おかしな緊張感で満たされた。
主催であるカウセルマン公爵を筆頭に、第2夫人である現奥方、長男ヨワイド・カウセルマン、長女エレシー・カウセルマン、元婚約者で幼馴染のヨヨ・バシリカ、今日の来賓であるワイアット・メイ・ロームボルド、そして立花 幸・・・・。
幸はこの状況を見て、なんだこれは、と思うのである。
貴族の晩餐、考えてみれば、幸はこの世界に来てからラジワットとの晩御飯がほとんどで、旅の夕食も街や村の食堂も、ラジワットと共に食べるものは、なんでも美味しく感じられた。
そう言えば、ロンデンベイルに居た頃も、貴族や王族との晩餐が何回もあったが、こんな雰囲気ではなかった。
むしろ、アットホームな印象、そうだ、毎日ホームパーティーを開いているような、楽しい感じがしていた。
それが、今日の晩餐は・・・・なんだろう、これ。
完全なるお屋敷での晩餐、大きな広間に薄暗い、それでも全体的に照らされている無駄に広い空間、誰しもを否定するかのような独特の圧迫感。
ここで食事?
自分は柄ではないと、つくづく感じる。
当然、ラジワットの邸宅でも、きっと同じような夕食なんだろうけど、ここにはラジワットもマリトもいない。
カウセルマンも、かなり気を遣っての事なんだろうが、彼が気を遣えば遣うほど、幸の孤独感は増すのである。
唯一の救いは、ロンデンベイルで一緒だったワイアットが居てくれる事だろう。
「で?、フェアリータがどうしてここに居るのかしら?」
先制攻撃は、妹のエレシーから始まった。
エレシーからすれば、幸は賓客ではなく、下僕のような扱いである。
異界の東洋人、この世界にも差別は存在する。
ましてや、兄を過剰に敬愛する妹のポジションからすれば、突然現れた謎の少女、幸の存在は、腹立たしい以外の何者でもない。
もっとも、エレシーのようなこの世の美貌を全て集めてしまったような女性からすれば、誰しもが目下に見えるのかもしれないが・・・・。
そんなエレシーの、数少ない理解者であり、味方でもあるのがヨヨである。
「相変わらずフェアリータさんには厳しいのね、エレシーちゃんは」
大人の余裕、ヨヨの身のこなしは、いかにも貴族のそれである。
エレシーは、ヨヨにだけは笑顔を向ける。
冷たい表情は、カウセルマン家の専売特許なんだろうか、この家自体が、カウセルマンに出会った当時の印象そのものだ。
当のヨワイド・カウセルマン自身が、この状況を見て、微笑ましい状況だと思っている。
これは重傷だな、と幸は思う。
きっと、今夜の晩餐は、豪華な食材を使った高級料理なんだろう。
しかし、何を食べても幸にはまるで、ゴムを噛んでいるように、なんだか味がしないのだ。
料理の味とは、やはり誰と食べるかが、本当に重要なんだと思い知らされる。
そんな、冷ややかな晩餐に、一言苦言を刺したのが、当主のカウセルマン公爵である。
「よしなさいエレシー、フェアリータ殿は、当家の賓客、皇帝陛下の
ワイアットは、一瞬耳を疑った。
皇帝陛下?、今、皇帝と公爵は言ったように聞こえた。
幸の方を見ると、特に皇帝の一言に反応した様子はない。
おかしい、言語は同じだ、オルコ帝国も、ドットス王国も、多少の訛りはあっても、言語は同じ西タタリア語、フェアリータにも聞こえているはず。
正直、ワイアットも王族に近い家系、そんな彼ですら、この晩餐は居心地が良いとは言えなかった。
そんな状況を見て、ワイアットはつくづく幸が不憫に感じられるのである。
ならば、幸をドットス王国へ招いては、とまで考えていたところに、この「皇帝」の一言が飛び出して来た。
その一言で、彼女をドットスへ、という希望が潰えてしまったのだ。
カウセルマン家が、皇帝の奉勅命令によって、幸を賓客として迎えている間は、彼女はこの家から絶対に出る事は出来ない。
奉勅とは、そう言うものだとワイアットも弁えていた。
しかし、こんな小さな少女が、なぜ皇帝陛下から奉勅を受けるほどの影響力があるのか、ワイアットは未だ掴みかねていたのである。
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