第156話 信じられないよ

 

「ミユキお姉ちゃん、落ち着いて、僕は似てはいるけど、マリトではないんだ、だから、ね」


「そんな事言われても、信じられないよ、マリトちゃんだよ、どう見てもマリトちゃんじゃない、第一、それならどうして私をミユキお姉ちゃんなんて呼ぶの?、その呼び方は、マリトちゃんが私を呼ぶ時のだよ!」


「ゴメンねお姉ちゃん、少し順を追って話をするから・・・とりあえず、少し離れてもらってもいいかな?」


 先ほどまで、とても遠い存在であった皇帝陛下が、今は本当に近しく感じる。

 いや、むしろ離したくない。

 マリトが今、目の前にいる、それだけで幸は感無量である。

 

 皇帝が言うには、自分とマリトは、ある事情によって、とても近い存在なんだと言う。

 つまり、皇帝は皇帝で、マリトはマリト、やはり別人である。

 しかし、それは兄妹や双子と言ったものとは違い、概念上の存在として、とても近いのだと言う。

 幸には、その意味がよく解らなかったが、要するに、マリトとほとんど同じ存在なんだと解した。


 しかし、仮にそうだとしても、何故知識レベルでマリトの記憶を持っているのだろうか。


「僕はね、マリトと繋がった存在なんだ、マリトの意識は、常に僕と繋がった状態、流石に見たものまで全て共有は出来ないけど、意識はつながった状態だからね」


「そんな事を言われても、よく解らないよ、だって、別人なんでしょ、それって、テレパシーみたいな?」


「僕にはテレパシーの意味が解らないけど、多分、もっと繋がった状態なんだと思うよ」


「やっぱり解らないよ、もう少し解りやすい、なにか、無いの?」


 エリルは少し考えて、慎重に言葉を選んだ、そして


「では、これなら解ってもらえるかな?、僕はね、ミユキお姉ちゃんの事が、本当に大好きなんだ、心から愛している。だからね、もし僕とお姉ちゃんの間に男の子が生まれたら、名前はマリキ、女の子ならミユリにしようと思っている」


 それは、決定的な言葉と言えた。

 いつかマリトが、幸の妊娠騒動の時に、涙ながらに語った内容そのものだった。

 あの時のマリトは、本当に可愛かった、あの時の思い出が鮮明によみがえる。

 そして、幸は皇帝エリルを強く抱きしめた、再び。


「わかった、お姉ちゃん、もう全てわかった!、貴方はマリトちゃん、あの時のマリトちゃんの半分は、あなただったのね。マリトちゃんは、マリトちゃんとエリルちゃんの二人で一つの人格、ね、そう言う事でしょ!」


「そうだね、それで大体、合っているよ。でもね、マリトは死んだんだ、死んでも僕とは繋がっている、だからね、マリトからの伝言を伝えるね」


 こんな切ない再会があるだろうか、最愛のマリトが目の前にいる、しかし、死んだマリトからの伝言を伝えるのも、やはりマリト、幸は頭が混乱して、どうにかなってしまいそうだった。


「お姉ちゃん、先に死んでしまって、ごめんね、お姉ちゃんは、どうかお父さんと一緒に幸せになって。僕はずっと見守っているから」


 幸は、もうどうしたら良いのか、皆目見当がつかなくなってしまった。

 だって、目の前に居るのはマリトだ、マリトが先に死んでしまってごめんなんさいと言っている。

 こんな愛おしい存在を、もう離したくないのだ。

 

「マリトちゃん、私こそ、ごめんさない、私、私、どうしたらいいの?、あなたはここにいるじゃない、もう離れたくないよ、一緒にご飯食べたい、一緒にお風呂入りたい、一緒に同じベッドで寝たい、ねえ、どうしたらいいの?、ラジワットさんも捕まっちゃったし、私、変になっちゃうよ!」


「ゴメンねお姉ちゃん、そんなつもりではなかったんだ。でも、マリトが伝えてくれって、凄くてね。また会えるから、絶対に僕、会うから、大丈夫!」


「ホントに?、ホントにホント?、絶対?」


「ホントにホント!、絶対!」


 二人は、顔を見合わせて、少し笑った。

 幸の笑顔が、皇帝は嬉しいようだった。

 笑いながら、泣きながら、幸と皇帝エリルは、いつまでも抱き合うのであった。

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