第133話 ラジワット様のためならば

「ここです、警備はほとんどいませんから、大丈夫です」


 セシルが案内したのは、この屋敷の地下貯蔵庫だった。

 そう、全てはラジワットが予想した通りである。


「バシラ、バシラはいるか?、ラジワットだ、助けに来たぞ」


 真っ暗闇の地下倉庫、ラジワットがそう言うと、短剣を地面に突き刺し、龍脈に当てた。

 すると、短剣の柄の先端に付いた宝玉が薄っすらと点灯し、周囲を照らす。

 そこには、衰弱したバシラが、希望に満ちた瞳を輝かせ、ラジワットを見ていた。


「ラジワット様!、まさか、本当にラジワット様?、」


 バシラは、涙で顔をグシャグシャにしながら、再会を喜んだ。

 実は、ここに閉じ込められていた、いつかの5人組は、ロンデンベイルを脱出したラジワットが、いずれここを通り、助けに来てくれるんじゃないか、と話していたのだ。

 逆を言えば、この地に助けが来るなんて事は、ラジワット以外に有り得ないことである。


「本当に、ラジワット様にはいつも助けて頂いてばかりだ、あっしら、ラジワット様のためならば、何処までもお供しやすぜ」


 そう言うバシラ達の縄を、セシルが手際よく切って回る。

 手首を摩りながら、光る短剣の周りに集まったバシル達とセシルは、ラジワットからの命令を待っていた。


「先ほど、私は部隊長の首を切った、恐らく匂いで異変に気付かれるだろう。バシラ、他に囚われている人間は?」


「はい、村の集会所に、そのほかの若い男が集められています、女子供、老人は拘束されていませんが、兵士がそれぞれの家屋を占領していますから、何かあれば、直ぐに集まってきます」


「そうか、ならばこれから話す事を、正確に行え、まず、集会所の番兵を襲撃し、中の男たちを開放する、その後、集会場に火を放ち、男たちは南に向かって走るんだ、オルコ国境まで」


 それを聞いたバシラ達は、一瞬動揺した。

 オルコ国境、そこまで行ったところで、自分たちに自由はない、これまで散々、悪さをして来た自分たちに、笑顔で門徒を開放してくれるとは到底思えない。


 それでも、そんな提案をしてくれるラジワットの事が、心から有り難くて仕方が無かった。


「解りました、ならば、盛大にやりましょう」


「そうだな、タタリア騎兵に仕返しをしないとな、セシル、村の外れに、フェアリータが待っている、先にそちらへ行って合流していてくれ」


 セシルは、その一言を聞くと、ラジワットの腕を掴んでこう言った。


「ご無理は承知の上です、どうか、御一緒させてください」


「しかし、セシル、君は・・・」


「ラジワット様、こんな妹ですが、お役に立てると思いますから、どうか連れて行ってやってくれませんか?」


 バシラの言う通りだった。 

 単独で行動させるより、皆で一緒の方が、案外安全かもしれない。


 バシラが、この地下倉庫は、集会所と地下通路で繋がっていると言い、彼らは真っ暗闇の中を集会場の地下目指して進むのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る