第116話 父親の気持ち

「フェアリータ様、先日は私めに秘術を施して頂き、感謝の言葉もありません、、、、、実は今回、折り入ってお願いが御座います」


 やっぱり、何かお願いがあるんだ、と幸。

 しかし、この状態で、一体なにを望むと言うのか。


「あの、、、、私に出来る事でしょうか?」


「はい、、、貴方様に出来なくば、誰にも叶いますまい」


 ゼノンは、幸達が前回村を去った後の話を始めた。

 それは、ゼノンにとっても、大変幸福な日々の話だ。

 あの後、直ぐに縁談の話が来て、翌月には式を挙げるほどのスピード結婚だった。

 お相手は、村のリーダー格の一人娘で、男姉弟が居なかったことから、是非養子に、とのことで、話は早くにまとまった。

 マリルタ・クヤック、大事に育てられ、少し気の強いところもあったが、ゼノンにとっては掛け替えのない女性となった。

 養子に入った為、ゼノンも「ゼノン・クヤック」として、この村で生きて行く決意を固めていた。

 しかし、動乱の時は訪れてしまう。


「この村にも、タタリア軍が来るとの情報が入りまして」


 幸は、なんだか話が支離滅裂だと感じた。

 何かお願い事があるのではないか?、どうして二人の馴れ初めを話す必要があるのだろう、と。


 しかし、ゼノンにとっては、それこそ大変重要な事柄だった。

 マリルタのお腹に、子供を授かったと聞かされた直ぐ後の事、事件は起こってしまう。


「マリルタが、村はずれの森で、野いちごを取っている最中に、、、、」


 ゼノンは、少し間を置いた。

 その場に居た、誰もがその言葉の先を察した。

 もう、この世界で、この流れ、、、、これは間違いなく悪い流れだ。


 そして、ゼノンはマリトに目をやると「ラジワット様のお子さまですか?」と聞いてくる。

 ゼノンはマリトの頭を愛おしそうに撫でると、マリトも簡単に自分がマリト・ハイヤーだと自己紹介をする。


「ラジワット様、お子さまは大切にされるべきですね、、、、私も、子の顔を見たかった」


 ラジワットも、悲しそうな表情へと変わる。

 子供を思う父親の気持ちなんて、身分も生まれも関係ない、世界共通の事項だ。 

 ラジワットだって、マリトの身を案じ、これまで危険を冒してここまできたのだから。


「フェアリータ様、、、せっかく私を人並みの大きさにしていただきましたが、、、どうか、元の巨人サイズに、戻しては頂けないでしょうか?」


 幸は、かなり困惑した。

 小さくするのだって、出来るか解らないものを何とか行ったというのに、それを戻すなんて事が出来るのだろうか?。

 それでも、ゼノンがせかっく手に入れた人としての幸福を手放してでも、巨人化してしなければならないこと、、、、。


 それは、もうマリルタさんの敵討ち以外に考えられない。


 亡くなった妻と、お腹の子供のために、残された人生をただ復讐のために費やそうとする決意、それが、今回のお願いである。


「ラジワットさん、、、私、どうしたらいいんでしょう」


「、、、、、そうだな、、、ゼノンがここまで考えて決意した事だ、私は、、、尊重すべきだと思う」


 いや、、、そういう事ではなくて!

 どうやって元のサイズに戻したらいいか、という部分が、大問題なんです!。


 ゼノンの言葉を聞きながら、村人からは啜り泣く声が聞かれた。

 あの、体長5mを越えるサイズに戻れば、もう人間として、人の里で暮らす事は絶対に出来ない。

 再び孤独に、洞穴での生活に逆戻りする事を、誰もが理解していた。 

 それでも、ゼノンは自身の幸福より、村人を守り、亡き妻の敵を討とうというのだ。

 このとき、人間サイズのゼノンは、東方の武術を村の若者に教え、人望を集めていた。

 知識も経験も豊富なゼノンは、若い男たちからとても慕われていたのだ。

 それ故に、ゼノンがもう自分たちと同じ生活圏に居られなくなるその決断に、涙したのである。


 ラジワットは、それが解っていた。

 


 ゼノンは、恐らくこの村を守りきって、その生涯を終えようと考えているのだと。

 妻の愛した村を守って、天国で妻と子供と三人で幸せになりたいと。

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