第115話 ゼノンの村
ラジワットは、焼けた村の中から、旅に使えそうな物を物色していた。
そこで一つ気付いた事がある。
これだけ大規模に焼き討ちに会っていながら、村人の遺体がほとんど確認出来ないという事を。
「ミユキ、これはもしかしたら、村人は何処かに逃げた可能性があるな」
幸はその一言を聞いて、少しだけ安心した。
それではどうして、この村は無人なんだろう。
そう思っていた矢先、ラジワットが何かの気配に気付いたようだった。
「ミユキ、気を付けろ、誰かが来る!」
幸は、マリトを守ろうと、ユキちゃんの近くへそっと寄り添う。
一応、腰に回した短剣を抜いて、警戒態勢を取る。
ユキちゃんも何かを察したのか、身を低くして大人しくしている、ユキちゃんの真っ白い毛並みに、炭化した煤が付着する。
男が3人、、、こちらに近付いてくるのが、幸の視界に入った。
しかし、ラジワットの姿は、気付くとどこにもなく、幸はただ身を屈めて男たちが過ぎ去るのを、息を飲んで見送る。
男たちは、何かを探しているようだった。
軍人、、、には見えないが、手には武器を持っている。
なんだろう、なにをしに来たのだろうか。
そう思っていた、その時、瓦礫の中に潜んでいたラジワットが、一人の男の首を後ろから腕で巻き込み、首筋に短剣を突き立てる。
「静かにしろ、抵抗しなければ殺しはしない、武器を置け」
そう言うと、そのほかの男は素直に武器をその場に置き、指示を待つことなく手を頭の上に置いた。
「、、、、あの、ラジワット様ではありませんか?」
男の一人が、ラジワットに話しかける。
ラジワットが直ぐに反応する、、、、知り合い?、なのか。
「ああ、お前たちは、この村の者か?」
「はい、そうです、良かった、皆あなた方の事を心配していたんです、、、、ロンデンベイルが大変な事になったことは、もうみんな知っていますから、、、」
ラジワットはそれを聞くと、首に当てていた短剣をしまい、あらためて村人の無事を確認する事にした。
幸とマリト、ユキちゃんも駆けつけた。
「ああ、皆さんもお元気そうで!、村人も一部やられましたが、残りの者は無事に避難しています」
「避難、、、どこに?」
ええ、この方向の山間部に、洞穴がありまして」
ラジワットと幸は、彼が指さした方向を見て、納得した。
そこは、恐らくゼノンが隠れ住んでいた、かつての巨人族住居のある方向だった。
「あの、ゼノンさんは、お元気にされていますか?」
「ええ、この村を救った英雄ですから」
幸は、この惨状を見て、とても村が救われた、とは言い難いと感じた。
逆に、ラジワットは、この状況で村人のほとんどが助かっていることに、感心していたようだった。
それは、この世界の破壊と殺戮が、それだけ凄惨であることを物語っている。
幸達は、村人の誘いもあって、あのゼノンの洞穴へ向けて進むことにした。
思えば前回この道を行き来したのは、まだ半年も経っていない。
なんだか、サナリア達とここを通ったのが、随分昔に感じられるほど、ロンデンベイルでは色々な事があった。
前回は、多少肌寒くとも、春の風であったが、今は冬の風である。
それが幸には、妙に冷たく感じられるのである。
「ラジワット様!、フェアリータ様!」
例の洞穴に近付くと、ゼノンが元気そうに手を振る。
暗い事件ばかりが経て続いた中で、久しく嬉しいニュースだ。
ゼノンがこちらに駆け寄り、幸達一行を出迎える。
「良かった、お元気そうで!、、、ロンデンベイルは大変でしたね、、、、」
「ああ、ゼノンも、、、、ロンデンベイルの話は、もうここまで聞こえているのか?」
「無論です、新皇帝のご乱心と、皆、恐れを成しています、、、私は慣れていますが、彼らは平凡な村人でしたので」
ゼノンの洞穴は、村人が住めるよう、かなり手を入れられ、新たにいくつもの穴が掘られ、外部からは見えないよう偽装されていた。
「それにしても、よくもまあこの人数で避難なんて出来たな、大したものだ」
「ええ、タタリア騎兵軍団の恐ろしさは、私も知っていますから。タタリアの先遣部隊が入ってきた時には、既に燃えさかっていた、という状況を作為しました」
「ほう、、、さすがだな、ゼノン、よく解っている」
幸は、村を自分たちで焼いたというゼノンの発言に、かなり驚いてしまった。
てっきり、タタリア軍に焼き討ちにあったのかと思っていた。
それでも、ラジワットが感心するレベルの対処方法だったのだから、ゼノンはよほど頭が切れるのだろう。
そんなゼノンが、幸の方を向くと、いつかのようにひざまづき、何か畏まってお願いがある様子だった。
お願い?、一体なにを要望されるのだろうか?。
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