第114話 上り坂

 前回ここを通った時には、マッシュやサナリア達が一緒だった。

 こうして歩いてみると解るが、この道はロンデンベイル方向に向けて緩やかな下りの道だ。

 故に、こうして逆順を辿ると、この道は緩やかに登りの道である。

 来るときは、幸の足に合わせてゆっくりだった旅も、今回は背後からタタリア騎兵の襲撃を恐れての逃避行である、それなりに速度も速い。

 幸は、マリトの辛さを考えると、自分も辛いと口に出せなかった。

 息が上がって、本当に辛い。

 立ち止まるほどではないので、そのまま歩いてしまう、それが余計に辛い時間を継続させる。

 初日は休憩もなく歩き続けたが、今は多少の休憩時間を設けている。

 幸は、その度に、水を飲み、ぐったりとしながら疲れた身体を地面の上に置いて休憩を取る。

 

 、、、、一体、いつまで続くというのか、この旅路は。


 いや、たしかゼノンさん達の村まで到達出来れば、なんとか一度態勢を立て直す事が出来るだろう。

 あの村であれば、ゆっくり休養して、お風呂に入って、美味しい物を食べて、ベッドでゆっくりと寝る事が出来る。

 そうしないと、幸だけではない、マリトも、ラジワットですら体力の限界を迎えてしまう。

 

 そんな強行軍が、10日を過ぎた頃だった。

 ようやくゼノンの村の近くまで到達することが出来たのである。

 

 とにかく、足を延ばしてゆっくり寝たい、ベッドで寝たい。

 幸は、お風呂や食事よりも、とにかく布団で寝たいという願望だけで、なんとか歩いて来ていた。


 しかし、幸達を待ち受けていたのは、期待していたものとは程遠い光景であった。


「、、、、ラジワットさん、、、、これって、、、」


 さすがのラジワットも、少し足が止まってしまった。

 まだ、ゼノンの村までは少しあったが、もはやその位置でも解るほどの状況である。

 

「まさか、ここまで到達しているなんて」


 軍事に詳しいラジワットの予想を、遥かに上回るほどの駿足で、タタリア騎兵軍団の刃は、その触手を急速に伸ばしていたのである。


 ゼノンの村は、既に焼き討ちにあい、村の集会場の塔が、黒く焼け焦げているのが見えた。

 幸も、さすがにモチベーションが落ちてしまい、その場にヘナヘナと座り込んでしまう。


「お姉ちゃん、、、、」


 マリトが、少しだけ呟いた。

 彼も、自分が出来る事をしなければ、と思ったのだろう。

 それでも、絶望する幸に、一体何と言って言葉をかければよいのか、マリトにも解らないでいたのである。


「そんな、、、ゼノンさんは、、みんな、一体どうなってしまったの?、、、第一、ここはロンデンベイルとは無関係でしょ、どうして焼き討ちになんてあうの?」


 そうだ、ロンデンベイルが閉鎖命令によって灰燼に帰すのは理解出来る、しかし、無関係のこの村にまで蹂躙の手が回る。

 ラジワットは、その異常な状況に、少し考えていた。

 一番考えたくはない、状況。


 それは、ロンデンベイル閉鎖勅諭の後も、巨大な破壊の勅諭が下されているのではないか、という懸念だ。

 そうすると、この旅路はもはや詰んだ状態に陥る。

 途中で休む村もなく、補給すら受ける事が出来ない。


「ミユキ、、、、とにかく一度、村に行こう、何か補給できる物を探して、今日は野宿だ」


 一瞬、目の前が真っ暗になった気がしたが、幸はこんな時こそ頑張らなくては、と再び奮起する。


 そんな三人と一匹に、近付く人の姿があった事を、このメンバーは未だ知らないのである。

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