第109話 皇帝勅諭(こうていちょくゆ)
それは、お隣に住むベルバロ夫妻が、朝食も前に訪ねて来た事から、事態が急変するのである。
「フェアリータちゃん!、大変よ、、、あら、ご主人様もご一緒で!」
「おはようございますベルバロ夫人、、、そんなに慌てて、どうされたんですか?」
息を切らせて、夫人の夫も駆けつけ、ラジワットに緊急事態だと、とにかく聞いて欲しいと、その尋常ならざる気配から、ラジワットはそれがよほどの異常事態だと察し、夫妻を広間へ通した。
「どうされましたベルバロさん、、、、よほどの緊急事態とお見受けしましたが」
「ああ、、、、大変な事になった、、、、
「落ち着いて、、、こんな早朝に、街中が騒然とするような話、、、皇帝勅諭の中身は?」
夫妻の、そのあまりにも尋常ではない状況に、幸は嫌な予感を通り越して、身震いすらしていた。
これは、かなり良くない方の知らせだ。
ベルバロ氏は、一度落ち着こうと椅子に座り、周りを見回して、マリトがいない事を確認した。
「これは、子供には少し衝撃的な内容だから、、、、今の時点では、二人に話しておく、、、、、皇帝直喩が下されたが、、、、タタリアの帝都で、大きな政変があった事は知っているね」
ラジワットは小さく頷いた。
え?、政変?、、、そんな話、初めて聞いた、と幸は何の事か掴めずにいた。
「ベルバロさん、、、、では、皇帝直喩とは、新しい皇帝の、という事でよろしいのですね」
「ああ、先帝の弟によるクーデターが成功して、今はその弟が皇帝に即位した、しかし、クーデターによる政変は政治が安定しない、今、タタリア中央は、非常事態らしいのだが、、、、」
再びベルバロ氏は、何か言いにくそうな表情を浮かべ、幸に目をやる。
なに?、、、え?、、、怖い、、、本当に怖い。
幸は恐怖で震えた。
ラジワットは、どうやらある程度は、何かを掴んでいた様子だったが、その予想を上回る事態が、どうやら起こっているらしい事は、隣の幸にも理解出来た。
それは、ラジワットがいつになく深刻な表情を浮かべているからに他ならない。
そして、ベルバロ氏が語った内容は、幸に激しい衝撃を与えるものだった。
それは「ロンデンベイルを閉鎖せよ」という、新皇帝の直喩であったのだから。
「、、、、、閉鎖、」
ラジワットは、閉鎖という言葉を一度呟いた。
それは、恐らくベルバロ氏が、言葉を選んで慎重に情報を伝えようとしていることが理解出来たからに他ならない。
すると、その一言を聞いたベルバロ夫人が、突然、顔を覆い泣き出してしまった。
「、、、、あの、、、ベルバロ夫人、、、、どうしてそんなに、、、何が起こっているのですか?」
隣に座るベルバロ氏も、妻の涙にどうすることも出来ないと言った表情で下を向く。
「ラジワットさん、、、これは、、、何が起こっているのですか?」
ラジワットは、静かに幸の方を向き、彼女を直視した。
それは、先ほどの口づけとは、全く異なる悲壮感が感じられた。
そして、ラジワットが幸を諭すように、こう述べた。
「ロンデンベイルは、オルコ帝国とタタリア帝国が条約で取り決めた正式な「飛び地(本国から離れた領土)」だ、それを一方的に閉鎖すると宣言したと言うことは、まもなくここに、、、タタリア軍が全てを
幸は、、、、、絶句した。
来年の春まで、自分たちはここで幸せに暮らして行ける、そう思っていた矢先の事である。
せっかくラジワットとの距離が縮まり、未来に希望を抱いていた、まさにその矢先。
幸は、自分がさっきから震えている意味を理解したのだ。
直感が、恐怖を教えていたのだ。
これから、ロンデンベイルに、とてつもない「破壊」という名の嵐が押し寄せてくる。
それこそが、先ほどベルバロ夫人が泣き出した理由。
長く住み慣れたこのロンデンベイが消失する、その絶望に対する涙である。
幸は、全身の血の気が引いて、目の前が暗くなったことに気付いた。
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