第97話 サナリアが振り返り
「国王陛下、まもなくタタリア・エフライム国境に御座います」
「よせ、ここで陛下は止めろ、気を抜くのではない」
マッシュは、自身を「国王陛下」と呼ぶ家臣に注意した。
無理もない、この国境地帯は、なぜか予想したよりも大分ピリピリしている。
しかし、理由が解らない。
もしや、マッシュ達一行の動きがタタリアにバレているのではないかと、マッシュは危惧していたが、案外国境自体はスムーズに通過出来た。
こうなると、マッシュの懸念は別のところへ及ぶ。
つまり、自分たちが警戒されているのではなく、国境全体が神経質になっているという事だ。
マッシュ達国王一行は、サナリア、ワイアット、キャサリンに加えて、護衛の使者8名を伴い、12名の比較的大きいキャラバンとなっていた。
もっとも、国王陛下のキャラバンとしては異常なほどの小ささであったが、タタリア領内における隠密行動を考慮すれば、もはや止むを得ない事である。
、、、そもそも、一国の王が、他国で身分を隠し越境するなどと言う事は本来あり得ないことであり、恐らくは亡命でもしない限り、再びこのような機会が訪れる事は無いだろう。
「ねえマッシュ、ちょっと様子が変じゃない?」
サナリアは、相変わらず二人の時は夫の事をマッシュと呼ぶ、これも二人の間で取り決められた約束事だった。
「こうなると、ラジワット殿が心配だな、、、、どうする事も出来ないが、、、」
ワイアットも、ロンデンベイルのラジワットを気遣う、もうここはエフライム公国、このキャラバンは、公然と国王一行と名乗っても問題ないエリアまで来ることができた。
ワイアットもまた、人がいない場所では、これまで通りの言葉遣いで親しく話す、と言う約束をした、もちろん、そんな事が回りの使者達に聞こえたら、不敬罪で捕まるレベルではあるのだが。
「フェアリータちゃん、元気にしているかしらね、、、、」
サナリアが振り返り、真っ白い山脈を遥か彼方に見て呟いた。
別れの朝、サナリアはもう泣いた、本当に泣いた。
サナリアにとって、可愛く健気な幸は、本当に愛おしい存在であった。
崩御した国王陛下の治療と言う大義名分が無かったとしても、ドットスへ連れて帰りたいと思うほどに。
この時、もしも幸がサナリアに付いて行ったならば、運命はまた大きく違っていたかもしれない。
サナリアは王妃であり、彼女の連れであれば、かなりの厚遇であったろう。
もはや、酷寒の冬も、夏の酷暑も、飢えも渇きも、無縁の生活が幸を待っていた事だろう。
それでも、そこにはラジワットは居ない、マリトもいない、幸にとって一番好きなものがなければ、どんなに満たされた生活であっても、それは幸福とは言えないのだから。
エフライム公国領内に入って暫くすると、大規模な国王護衛集団が使者と国王を待ち受けていた、その規模は1個大隊(300人)規模だ。
他国において、これだけ壮大な軍の馬列も珍しい、もちろん国王と、婚約者であるサナリアは、馬車での移動へと切り替わる。
「これで、俺たちの旅も、本当に終わりなんだな」
「マッシュ、、、、、でも、私は貴方の隣に、ずっといるわ!、だから、、、そんな顔しないで、、、あなた」
二人は暫く見つめ合うと、ゆっくり前を向いた。
冒険者マッシュのパーティは、こうして旅を終えた。
そして、キャサリンは、ドットスへ帰る前にここで別れる、と言い去って行った。
最後に、王宮の屋上に30m四方のスペースを準備してくれれば、きっといいことがある、と、不思議な事を言い残して。
「サナリア、、、キャサリンのあれは、何だったんだろう?」
「、、、私にも、さっぱり解らなかったわ、でも、彼女とは、きっとまた会える、大切な仲間なんだもの。だから、言われた通り、屋上にスペースを作らないとね」
二人は知らない、このスペースが、キャサリンの
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