第94話 マッシュの国

 ロンデンベイルに来てから、既に一カ月。

 幸は依然、サナリアの「一緒に国へ来てほしい」という申し出について悩んでいた。

 これだけ親しい間柄、何とかその申し出を聞き入れてあげたくなってしまう。

 

「ねえラジワットさん、サナリアさん達の国って、ここからどのくらいの所にあるんですか?」


「どうしたミユキ、興味があるのかい?」


 幸は、ラジワットにそれをどう伝えたら良いのかが解らなかった。

 なにしろ、幸は現在、ラジワットの家族である、家長の許可もなく、国外に出ることも出来ないし、幸自身も、本音はラジワットやマリトと離れる事は到底考えられない。


「はい、、、サナリアさんに、誘われているんですが、、、近いなら、ちょっと行って帰ってこられるのかな、って、、、」


 ラジワットは、少し考えながら、重い口を開く。


「そうだな、馬やラクダを伴ったキャラバンならば3カ月と言ったところだが、全行程を徒歩となると、更にかかるんじゃないか?、容易い道ではないし、彼らの国はここから大分南だ、国境も三つは越えなければならないからな」


 早くて3カ月、、、、往復だけで半年、治療やアクシデントを考えれば、一年近くはラジワットとは離れ離れにならなければならない。

 やはり、それは無理な話だと思う。

 ラジワットとマリトと一緒に旅をする、というのも考えたが、敵国の連隊長を、王国も黙って見過ごしてはくれないだろう。

 最近のマッシュとサナリアは、すっかり落ち着いて、仲の良いカップルとなっている。

 そんな幸せそうな二人の、唯一の懸念事項、幸としては、なんとかしてあげたいと心から思うのである。


「サナリアさん、私以外で、ロンデンベイルに強い術師は、本当に居ないのですか?」


「そうね、、、あれからも探しているんだけど、、、ダメね、やっぱりフェアリータちゃんのレベルでは無いわ。マリトちゃん、、、、随分大きくなったわね、、、やっぱり、あなたは特別な存在なんだと思うわ、ラジワットさんも、よくあなたを見つけ出したと思うもの」


 そう言うと、サナリアは窓の外に目をやった。

 そう言えば、最近のマッシュも、少し静かに遠くを見ている事が多くなった。

 幸は、もう思い切ってキャサリンにそれを相談しようと思った、あのUFOなら、もしかしたら解決出来る事があるのでは、と思ったのである。



「ええ?、モームで王国まで往復する?」


 幸は、あの乗り物であれば、瞬時に移動が出来るのでは、と考えていた。

 しかし、キャサリンの回答は、やはり、、、というものだった。


「あのねフェアリータちゃん、あのモームという乗り物は、この世界では異物なの、正直、私も異物、、、もう一つ言えば、あなただって異物なの。管理人に見つかれば、排除されてしまうのよ。それに、私がこの世界に過剰介入してしまえば、この世界は崩壊しかねない、少なくとも、貴方達を運んで、マッシュのお父さんを治療する、というのは、許容範囲を超えているわね」


「でも、マッシュさんのお父さんを見殺しになんて、できません!」


「フェアリータちゃん、それを言ったら、死んでもいい命なんて一つも無いのよ、結局、この世界の問題はこの世界の人が解決すべき事なの。正直、あなたが行っているマリトちゃんへの治療も、かなり危険な事なのよ」


 幸は、それが意外な事だと感じた。

 もはや、日課となっているマリトへの治療、これも危険領域なんだとしたら、自分が出来る範囲は案外狭いという事になる。

 これは、、、、どうしようもない。

 幸は、その事実をサナリアとマッシュに告げなければならなかった。

 せめて、このロンデンベイルで、幸の次くらいに強い術者を探してあげることくらいしか、自分には出来る事はないのだろうと。

 

 キャサリンの部屋を出て、階段を下りた先に、ラジワットが居た。

 彼は、全てを悟ったように、優しく幸を抱き寄せた。


 ああ、相変わらず、この人は男前ハンサムだな、と幸はラジワットの胸に抱かれて、少しだけ泣かせてもらおうかと思った、こんな時、全てを包み込むラジワットの存在は、もはや幸にとって掛け替えのない存在となっていた。

 そんな時、広間から聞いた事のない人物の声が混ざって聞こえて来た。

 

 、、、?、誰だ?、誰かが訪問したような気配は感じなかったが、、。


 幸は、ラジワットと二人で広間に行くと、そこにはマッシュが立ち尽くしていた、、、、そして、その他の人物は、全員ひざまずいていたのである。

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