第89話 喧嘩の理由

 朝食の食卓には、異様な雰囲気の4人と、ラジワットと幸の含めた6人が、とりあえず同じ食卓に着いた。

 マッシュは、口の中が切れていて、とても食べ物を口に出来る状況では無かった。


「、、、で?、最初の切っ掛けは、何だ?」


 ラジワットの質問に、最初に答えたのはサナリアだった。


「すいません、私、盗み聞きするつもりはなかったんですけど、、、、マッシュとキャサリンの会話を、聞いてしまったんです」


 サナリアが言うには、マッシュは以前からキャサリンに好意を持っていて、村はずれの林内で、マッシュがキャサリンに告白をしている所を聞いてしまったのだ。

 しかも、その告白とは、好き嫌いのレベルではなく、自分の妻とならないか?、というレベルである。

 幸は、それを聞いて、あの時か、と直ぐにピンと来た。

 村を出る前、サナリアの様子がおかしかった事があった。

 そうか、あの時、、、。

 幸は、サナリアがそんな心情を打ち明けてくれなかった事が、少し残念に思えた。

 何しろ、幸の恋バナは散々引き出しておいて、自分のこととなると、まるで話してくれないのだから。


 サナリアの、そんな悲壮感ある発言に、一同は黙ってしまった。

 キャサリンが、そんな空気を打ち破ろうと、取り繕うとする。


「私はね、ごめんなさい、その提案にはYESと言えないわ、いずれ帰らなければならないし、、、マッシュには申し訳ないんだけど、、」


 すると、マッシュが、本当にバツが悪そうに、一言だけ、呟いた。


「、、、、第2だ、、、」


 一同、「はい?」と、マッシュに向かって聞き直した。


「、、、いや、、だからさ、、、第2夫人っていう意味で、、、、キャサリンを」


 静寂が食堂を支配した、、、、数行間だけ。

 そして、その意味を理解した女性二人が激昂したことで、この静寂は破られた。


「ちょっ、、、ちょっと!、あんた!、まさか、キャサリンを第二夫人にって口説いていた訳?、あんた何様?、いい気なもんね、第一夫人ですら、まだ婚約状態だって言うのに、もう第二婦、、、はー、もう、、あんたって、本当に、、」


 サナリアは、マッシュの顔面がボコボコでなければ、本気の一発を入れていたことだろう。

 そしてサナリアよりワナワナと怒りに震えていたのは、他ならぬキャサリンである。


「へー、坊や、いい度胸ね、私が二番目なんて、、、、ちょっと顔がいいからって、調子に乗ってるんじゃないの?」


 あれだけ殴っておいて、ワイアットはキャサリンの本気の一振りを止めに入っていた。

 幸は、やっぱりこの世界の「第二夫人」という考え方が、少し嫌だと感じた。

 好きな人には、ずっと自分だけを見ていて欲しいと思った。

 ラジワットも、条件が揃えば、同じ事をするだろうか、、、。

 もし、ラジワットの横に真理子さんがいて、私は2番目の席を望むんだろうか。


 幸は、虎柄ビキニの宇宙人が、ダーリンの浮気を怒る気持ちが、今なら解ると思えた。

 どんなにハンサムでも、やっぱり男性は、誠実で真面目な方が良い。

 

 こうして、暗かった4人の関係は、一応の決着をもって元に戻った、、、マッシュはサナリアに頭が上がらないままではあるが。


 そして、もう一つ意外な収穫があった。

 それは、サナリアがヒーラーとしてマッシュの顔の治療に当たっていた時、「フェアリータちゃんも、やってみる?」と聞かれたので、見よう見真似でやってみることにした。

 昨日の、幸の秘儀をみてしまったサナリアとしては、幸の潜在能力を測り切れないでいたからだ。

 マッシュは「俺は実験台か!」と言って怒ってはいたが、その実、マッシュ自身も幸の能力にはとても興味を持っていた。

 場合によっては、新たな交渉が必要なレベルに。


「いいですか?、それでは、、、」


 幸がマッシュの顔に手を当てて、サナリアの指示に従いながらゆっくりっと念を送る。

 すると、マッシュの腫れは目に見えて解る速さで引いて行き、最後には痣まで消えてしたまったのである。


「まあ、、、、これは、、」


 サナリアは、彼女が期待していた以上の成果を上げた幸に対して、かなり本気の興味を示していた。

 マッシュは、サナリアに耳打ちすると、サナリアもそれを快諾したようだった。

 、、、何?、何の話をしたの?

 そう思っていたのだが、マッシュとサナリアは、ラジワットに対して「先ほどのお申し出、受けたいと思います」と返答して来た。



 その解答の意味は、このロンデンベイルで、同じ一つ屋根の下で暮らす事を示していた。

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