第90話 毎日お泊りしても
マリトは、その大きな屋敷を前に、もうフルフルと嬉しさのあまり、縦に震えていた。
小さくジャンプするマリトは、なんだかご馳走をお預けされた子供のように見えて、幸の母性本能は、くすぐったさマックスである。
「ねえ、ここでお父さんとお姉ちゃんと、皆と、毎日お泊りしてもいいの?」
「もちろんよ!、これからマリトちゃんが良くなるまで、私達はみんな一緒に生活するの、外泊じゃないわ、もう病室に戻る事は無いのよ!」
幸がそう言うと、マリトは「やったー」と言いながら、再び小刻みに縦に跳ねた。
そんな仕草がもう、幸には可愛くて仕方が無かった。
ああ、これからここで、3人と一匹、そして、4人組との新生活が始まる。
ランカース村でラジワットと二人で過ごした、あの家を超える屋敷が、自分の人生に出てこようとは、夢にも思っていなかった。
それだけに、マリトの治療はまだ途上にはあるが、大好きな人達に囲まれて、この幸せは一体何だろう、と、ほっぺをつねりたくなる幸である。
「運ぶ家具も、何もないから、とりあえずもう今日から屋敷に入ってしまおう」
ラジワットがそう言うと、マリトははしゃいで玄関に入っていった。
ラジワットやマッシュ一行達は、国へ帰れば高貴な生まれ故に、相当な屋敷を持っているであろう事は容易に想像出来た。
それでも、幸にとって、この屋敷は夢のように大きいと感じた。
ラジワットも、4人組が生活するならばと、家族で住むより少し大きい規格の家を借りてくれた。
敷地には、庭もあり、稽古をするのには困らないスペースがある、ご丁寧に、庭の中央には小さな噴水まで付いている。
しかし、その噴水の、あまりの小ささに、マッシュたち高貴な生まれ組は、その噴水を見て笑っていた。
幸は、ああ、やっぱり高貴な生まれの人たちからすれば、ここは小さい部類に入るんだと思った。
さすがに賃貸物件だけの事はあり、中はもうすぐにでも生活できるように整備されており、マイホーム的な温かさを感じる事が出来た。
「マリトちゃん、そんなに慌てないで、また具合が悪くなりますよ!」
幸がそう言うと、サナリアとキャサリンが、もうすっかりお姉さんとなった幸の事を微笑ましく眺めていた。
取り急ぎ、部屋割りを決めることとしたが、誰が何の気を回したのか、今回は女性部屋と男性部屋ではなく、基本個室があてがわれた、、、、しかし、何故かマッシュとサナリアは、、、同じ部屋である。
「ちょっと!、ラジワットさん!、お気遣いは有り難いのですが、、、私、一応まだ嫁入り前ですので、、男性と二人部屋は、、、」
「サナリア、、、君ももう覚悟を決めて、マッシュと一緒にいた方がいいと思う、お節介かもしれないが、ワイアットとキャサリンも合意してくれたから」
サナリアは、もう真っ赤になって下を向いてしまった。
本来であれば、貴族の戒律から大きく外れた不貞行為となるのだが、ここは遠い異国の地、、、、少しくらいなら、流されても、、いいかな、って、思う事にした。
そして、夕食のために広間に集合した一同は、マリトの退院祝いと、新居への入居を祝って、ささやかな会を開くこととした。
本来、主役のマリトであったが、何故か「マッシュ、サナリア、お幸せに」とか、「もう喧嘩するんじゃないぞ」などの、、、おかしな祝辞が二人に送られていた。
その度に「結婚か!」「初夜か!」とマッシュは切り返すが、マッシュはマッシュなりに、かなり嬉しそうに見えた。
なんだかんだいっても、マッシュはサナリアを一番に愛している、それは間違いない、、、、二番目を求めた事があったにせよ、だが。
マリトにとっては、全く意味不明な会話ながら、もう病院に一人で居なくて済む喜びが大きすぎて、この際、話の内容などは、どうでも良いレベルであった。
しかし、、、
突然、会話の方向が変わったのだ、それも、幸の方向に。
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