第79話 一番弟子

 二人と一匹の旅路には、あの4人の冒険者も加わった。

 ゼノンは結局、あの村から大歓迎を受けて、その場に残る決意を固めた。

 もちろん、帰りの道で、必ず立ち寄ってほしいと、一言添えて。

 ゼノンは、自分たちを見送る時、村人の真ん中で見送ってくれた、それはまるで、村の中心人物となったように、背の高い彼を中心に、村人が集まっていたようにさえ見えた。

 ゼノンは、先ほどラジワットとの練習試合を見せたことで、村人に武器を使わなくても出来る「武術」の概念を植え付けた。

 村の若い男たちは、自分にも是非教えてほしいと、それはもう盛り上がっていた。

 きっと、帰り道の頃には、この村の男たちは「空手」の達人が大勢いる事だろう。

 なんだか、最初には考えもしなかったハッピーエンドに、幸の心は少し浮足立っていた。

 やはり、誰かが幸福になるのを見ると言うのは、とても気持ちの良いものだ。

 

 、、、それに、朝からラジワットとゼノンの、逞しい裸を見れて、、、そして、、、ガッツリと締め技で組んだ時の、筋肉の隆起を見れて、、、、、

 幸は、頬を赤く染めながら、恍惚の表情を浮かべていた、、、


 ああ、なんか、いい物、見たな、、、、、と。


 そんなホクホク顔の幸とは裏腹に、4人組のパーティは依然微妙な雰囲気を醸し出していた。

 そんな事とは知らず、幸はこの4人とロンデンベイルの療養所まで一緒に旅が出来ることも、嬉しい誤算であった。

 

 そして、この4人組がどうしてもロンデンベイルを目指さなければならないかという理由についても、道中で語られることとなった。

 それは、マッシュの口からである。

 自分の父親が、重い病に倒れてしまい、それを治療するためには、ロンデンベイルの魔術が必要なんだとか。


 ん、、、?、、、魔術?


 幸は、何で療養所に魔術が関係しているんだろうと不思議に思った。

 それについては、ヒーラーであるサナリアが詳しく教えてくれた。


「ロンデンベイルって言うのはね、病気に対する療養所と言うよりは、呪いに対する療養所に近いのよ。だから、世界中から「呪い」で悩んでいる患者や家族が詰めかけるの」


「でも、どうして私達と一緒に行く事を選んだんですか?」


 サナリアは一瞬、口を噤んでマッシュの方を見た。

 マッシュは、特に良いとも悪いとも言わず、その会話をただ聞いていた。

 サナリアは、それがマッシュからの「OK」合図だと受け取り、その続きの話をした。


「ロンデンベイルはね、基本的に世界中からこの分野の専門家が集まる場所なの、そだから、呪いに関する治療の実験や研究が行われているの。でもね、この分野で最も進んでいるのが「オルコ帝国」なのよ、、、、私達、基本的には帝国とは、敵対勢力だから、、、」


 なるほど、そう言う事か、と幸。

 それでも、平民同士の話であれば、敵対国だから、という理由で受け入れを拒絶するなんて、了見の狭い療養所だな、と思った。

 マッシュの家族、、、誰なんだろう、そもそも、マッシュの家族を救うために、他のみんなは付いてきてくれたのだろうか?、なんだか、仲が良いを通り越して、異様な結び付きを感じる幸であった。


「ところでラジワット殿、、、、その、先ほどのカラテという武術、私も興味があるのですが、、、」


 ワイアットは、少しバツが悪そうな表情でラジワットに話しかけた。

 そう言えば、ラジワットが近衛連隊の連隊長であることを知って以降、ワイアットは妙によそよそしくなっていた。

 ラジワットも、その辺を理解していて「もし良ければ、旅の道中、稽古を付けようか」と提案してくれた。

 ワイアットは、それはもう喜んだ、そして、マッシュも、ワイアットだけズルい!、といい、結局男二人はラジワットから空手の稽古を付けててもらうこととなった、そこにはもちろん、幸も含まれていた、、、、?


「え、私もいいんですか?」


「ああ、勿論だ、君は私の一番弟子だからな」


 その言葉に、幸の心には再び温かく、擽ったい何かが芽生えた。


 一番弟子


 どんな内容であれ、ラジワットの一番になれたことが、嬉しくて仕方がない。

 あれだけ沈んでいたパーティの雰囲気が、この稽古について盛り上がったことで、ようやく少しは元に戻ったようだった。

 こうなると、負けん気の強いサナリアも「私もやりたい」と、無謀な要求をし始め、結局、キャサリン以外の人間は、全員ラジワットの稽古を受けることとなったのである。

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