第77話 不協和音

 ゼノンは、村人の前に出ると、これまでの経緯を話始めた。


「みなさん、恐らく信じられないと思いますが、皆さんが巨人だと信じていたものは、私で間違いありません」


 こうして、ゼノンは自身が呪いによって巨人化したこと、人間の集団とは共に住む事が出来なくなってしまったこと、元々居た巨人族は、既に絶滅してしまったこと、そして、今回フェアリータの秘術によって、半分以下のサイズまで戻してもらえたこと。


「失礼じゃが、ゼノン殿は元々、どの地域からこの土地へ来たのですか?」


「はい、遠く東の果ての国より、何十年もかけてこの地へ参りました」


 、、、、東の果て、、、


 幸は、もしやそれは日本のことを指しているのでは、と思った。

 この世界での日本、一体どんなことになっているのか、それはとても興味深いことだった。

 ラジワットも、それを聞いて、何か合点が行ったという表情を見せた。

 

「そう言う事情だ、ゼノンは討伐には値しない人物だ、巨人ではないのだから。そして君たちに問う、このゼノンと共に、この村を繁栄させては行けないだろうか」


 ラジワットの申し出に、流石に飲み込みきれない村人は一斉に声を挙げた。

 まず、住居は?、仕事は?、本当に危険はないのか、など、様々な意見は一斉に村長へ向けられるのである。


「おい!、お前ら!、もしゼノンがこの村に不必要だというならば、ドットス王国が正式に彼を迎え入れる、それでいいんだな!」


 強い口調でマッシュが叫んだ。

 村人は、その一言で、目の前にいる大きな男が、王国に対してとても価値のある人物であることに気付くのである。

 そこへ、間髪入れずにラジワットもこう言い放った、「ドットス王国だけではないぞ、彼を欲しているのはオルコ帝国も同じ、君たちが必要ないのであれば、彼は是非にでも帝国に連れて帰る」


 これは、とどめの一発となった。


 王国と、帝国の双方が必要とする人物、さぞ強者に違いない、と。

 こうなると、村人の世論は、一気に村への残留へと傾きはじめ、このパーティ一行と元巨人ゼノン、そして一番の功労者であるフェアリータの祝いの宴を、一刻も早く開始しようと村民の意見は一致した。

 そして冷静になって村民達は思うのである、王国や帝国を代表して、、、彼らは何者?、と。


 こうして、ゼノンの一件は、劇的に片づいてしまった。

 当のゼノン本人ですら、あっけに取られて未だ呆然としている。

 この宴で意外だったのは、いつも行く先々で女性陣から猛アタックをかけられていたラジワットより、ゼノンのモテぶりであった。

 特に、村で婿養子を欲しがっている家の娘は、もう、あからさまにゼノンの嫁に勧めようと、水面下で取り合いが始まっていたようだ。

 ゼノンは、巨人の時には気がつかなかったが、よく見れば案外イケメンで、2mを越える背の高さ、強力な筋肉と、モテ要素は多い人物だった。

 幸としては、ラジワットが誘惑されずに済んで一安心、と行きたいところだが、何となく自分の一番の推しがゼノンに負けたようで、複雑な気持ちであった。

 

 しかし、この時、その他の4人のメンバーには、何とも言い難い不協和音が鳴り響いていたのである。


 一番深刻な表情を見せていたのはサナリアだった。

 それは、マッシュがキャサリンに接近した時に起こった。


「キャサリン、昨日のことは、、、その、あまり深刻に受け止めないでほしい、俺の、率直な気持ちなだけだ、ただ、、、」


「やめて、、、私はサナリアを裏切るつもりはないの、、、あなたの気持ちは嬉しいわ、でもね、私達は住む世界が違う、それは解ってちょうだい」


 二人の間には、沈黙が流れた。

 

 その沈黙の間には、しっかりとサナリアとワイアットの二人も存在していた。

 これがこの後、刺さった棘のように、この4人の関係に罅を入れることになるのだった。

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