第76話 フェアリータの秘術

「ゼノン、お前さあ、体が小さくなったら、何となく表情も人間らしくなったな」


 マッシュが、素っ頓狂な事を言う。

 なぜなら、ゼノンは最初から人間であり、亜種である。

 それも、呪縛から解かれた今となっては、単に大きい人間である。

 ゼノンの身長は、あの後も少しだけ縮み、今では2m15cmまで低くなっていた。

 このサイズであれば、人間サイズの住居に住む事が出来る。

 それでも、巨人だった頃と同じく、パワーだけは凄まじく、これも呪いの後遺症のようであった。


「ゼノン、これから村に入って、君の事情を話してみる。村人が君を受け入れてくれれば問題ないが、もし行くとこが無いならば私と一緒に来ないか?、君さえ良ければの話しだが」


 ゼノンは、意外だと言う顔を見せた。

 すっかり人間らしい表情となったゼノンからは、その心情がとても伝わりやすい。

 それ故、ゼノンがラジワットの申し出を、心から感謝していることは誰の目にも明らかである。

 しかし、そこへ待ったをかけたのが、他ならぬマッシュであった。


「ちょっと待て、それはゼノンが決めることだろ、、、なあ、ゼノン、行くところが無いのなら、俺たちと一緒という選択肢もあるんだぜ!」


 意外だと感じたのはゼノンだけのようで、ラジワットは少し苦笑いをした。

 要するに、この元巨人の強力をスカウトしたい、というのが両名の本音である。

 もちろん、ラジワットは単に自身の連隊にスカウトしたいだけではなく、縁のあったゼノンに対し、一緒に旅をしないか、という考えもあったのだが、マッシュ達と共に旅をすれば、いずれは自身の軍隊とゼノンが敵対する可能性を危惧していた。

 それは避けたい、少なくとも、そんなことになれば、ミユキが傷つく、そう思った。


 そんな会話があって以降、村へ向かう道中、ゼノンは何も話さなくなってしまった。

 彼も、村人が自分を受け入れてくれるかが不安であり、再び人間らしい生活を取り戻せるかがこの後、判明するのだから。

 

 村には、本日巨人の件について、重大な相談がある旨の話が成されていて、既に村の中央広場には、この村のほぼ全員と思えるほどの人数が集まっていた。

 娯楽に乏しい村にとって、この珍事は強いインパクトがあった。

 

 そんな人集りをかき分けるように、村長がラジワットと方へ向かう。


「これは冒険者の皆様、今回は巨人討伐、本当にありがとうございました、なんとお礼を言ったら良いのか、報酬については十分な額を提示させて頂きますので」


「その事なんだが、良いか村長、もしその報奨があるのであれば、一つ提案がある」


「、、、、ほう、提案ですかな?」


「ああ、実はな、今回我々は、巨人を討伐していない」


 ラジワットのその一言で、村人が一斉に不安の声を挙げた。

 てっきり、もう巨人の驚異が無くなったとばかり考えていたからだ。

 村も討伐を記念して、今晩は宴を準備していた、もちろん村中の娘たちも、ここぞとばかりにお洒落して。


「ラジワット様、、、、それは一体、どういう、、、」


「ああ、討伐するより、もっと良い方法を思いついたでな」


 そう言うとラジワットは幸を呼んで、自分の前に立たせた。


「ここに居る娘、名をフェアリータと申す巫女だ、彼女が今回の件、全て納めた」


 ちょっ、ちょっと、急に何を言い出すのですか、ラジワットさん!。

 幸は、あまりの急な話に、リアクションに困ってしまった。

 もちろん、村人の感心は、一気に幸へ注がれた。

 こんな華奢で幼い少女が、一体巨人と何をしたというのか。

 半信半疑なその申し出に、それでもラジワットが発した「巫女」と言う単語に感心の中心があった。


 まさか、この少女が、、、巫女?


「ここにいる巫女、フェアリータの秘術が、巨人を救ったのだ」


 村人は、再び歓声に包まれた、、、、ただ、、なんだ?、救った、とは。


「あの、、ラジワット様、、、、この少女、、巫女様は、巨人にどんな秘術を使ったのですか?」


 すると、ラジワットは、笑いながらこう言い放つ。


「巨人を、小さくしたのだ」


 当然、村中がざわめく、、、、まさか、、、まさか、小さくとは、目の前にいる、、、この大きい人物、、、、いや、まさか!



 こうして、ゼノンがようやく前に出て来て真実を語り出すのである。

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