第75話 君の力の正体

「、、、、じゃあ、、、行きますよ!、ゼノンさん、ラジワットさん!」


 幸は、恐る恐るゼノンの肩を叩き始めた。

 ところが、叩いてはいるのだが、何ら変化は起こらない。

 幸は、段々不安になってきた。

 

 これは、、、まさか失敗では!、と。


 そんな時、ラジワットは的確なアドバイスを送る。


「ミユキ、もっと強くだ!、対象が大きい時には、その分、力も大きくしなくては効き目がない!」


 幸は、ラジワットの指示に元気良く「はい!」と答え、思い切りゼノンの肩を叩く。

 渾身の力を込めて。


 すると、どうしてか、叩けば叩くほど、腕に力が入らなくなる、、、、なんとなく、バランスが悪くなって行く。

 

 なんだろう、どうしたんだろう。


 「ミユキ、、ほら、解るかい?、君の力の正体が」


 ラジワットの言うことが、幸はよく解らなかったが、他のメンバーが歓声を挙げると、自分の状態を俯瞰して見ることが出来た。


 ゼノンが、小さくなっている!。


 力が入らないのではなく、ゼノンが小さくなって行ったため、力点が下がり、上手く叩けない高さになっていたのだ。

 ラジワットが、少し腰を低くして幸の位置を下げてくれた。

 再び力を込めて叩く幸。

 そして、ゼノンはゆっくりと、そしてしっかりと、小さくなって行く。


「よくやったミユキ!、成功のようだな!」


 気付けばさっきまで5mを越えていたであろうゼノンの身長は、今では2mを越える程度まで小さくなっていた。


「、、、ミユキ、もういい、十分だろう」


「おいラジワット!、もう少し小さくした方がいいんじゃないか?」


「いや、これでいい、これ以上は残念だが、彼の寿命が尽きてしまう、つまり即死領域に入ってしまうんだ」


 一同は、その一言で全てを察した。

 そうか、ゼノンの身長の限界がここまでなんだと。

 それでも、ゼノン本人は、涙を流して喜んだ。

 そして、振り返ると、幸の手を取り、何度もありがとうを繰り返す。


 幸は嬉しかった。

 誰かの役に立ちたいと、子供の頃から思っていたから。

 自分の肩たたきが、誰かを癒す事が出来るなら、自分の手がどんなに痛くたって我慢出来る。

 元の世界にあのまま居る事が出来ていれば、幸は看護婦になりたかった。

 医療に従事して、苦しむ人の側に寄り添ってあげたいと、いつも思っていた。

 それが、今日は少し叶ったような気がして、実は幸が泣きたいくらい、嬉しかったのだ。

 幸は、ラジワットの肩車から降りると、今度は正面から抱きつき「息子さんも、きっと私が癒してさしあげます」と囁いた。

 ラジワットも、なぜかその一言に心を打たれた。

 どうしてだろうか、こんなまだ幼い、14歳の少女に、どうして自分の心は動かされるのだろう、と。

 耳元で囁く幸の仕草に、今日は巫女としての幸ではなく、女性としての幸を一瞬だけ意識してしまうのである。


 もちろん、自分の行いが、そんな効果を挙げていることなど知る由もなく、幸は自身の喜びを、ラジワットは共に分かち合ってくれることが、幸福なんだとあらためて感じたのである。

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