第72話 理解が及ばない領域

 幸の目の前に、あのUFOが出現した。

 クラスのオカルト好き男子が、よく学校に持ってきて先生に怒られていた雑誌や本に、同じ形のUFOが載っていたのでよく覚えている。

 月夜のUFOをバックに、笑みを浮かべるキャサリンは、テレビの特集で見た事がある人間型の宇宙人そのものに見えたのだ。


 幸は、正直幽霊や宇宙人という物があまり好きでは無かった。

 怖いのだ、大体、幽霊や宇宙人が好きという方がどうかしている。

 人間は、自分の理解が及ばない領域に、恐怖を感じるものだ。

 そして、幸にとって、今がそれに該当する。

 

 、、、宇宙人は、人間を浚って、人体実験をする、、牛を浚って、血を全部抜き取る、、、ああ、なんとなく聞いた事がある、これは本当に怖い。

 嫌だ、人体実験なんて、絶対に嫌だ!。

 幸は更に怖くなって、足が震えて来た。

 

「嫌、、、、お願い、私を連れてかないで、、、」


 幸は、思わず小声でそう呟いてしまった。

 それを聞いたキャサリンは、薄笑いから、本格的に笑い出してしまった。


「もう、、、どうして?、私があなたを連れて行くわけないでしょ!、どうしたの?、私が宇宙人にでも見えた?」


 いや、だからさっきから、そう言っているのだけど、、、、あれ?、宇宙人ではない?、、、では、あなたは一体、、、何者?

 

「ああ、そうか、1985年頃なら、これはまだ宇宙人の乗り物だったわね、、、私は、、、」


「ちょっ、、ちょっと待ってください!、、、心の準備が、、、でも、キャサリンさんは、格好いいと思っています、私、あなたが宇宙人だとしても、友好的に考えていますので!」


 すると、キャサリンは、再び腹を抱えて大笑いしはじめた。


「もう、あなたって、本当にいい子ね、、、もう、、本当に!」


 幸には、何がそんなに可笑しいのか、さっぱり解らなかった。

 なんだろう、このギャップは。

 キャサリンは、笑いを堪えて呼吸を整えると、しっかりとした口調で自身の身元を明かした。


「私はね、この後ろにある乗り物に乗ってこの世界にやってきた未来人なの、いきなりそんな事を言われても、困惑するとは思うけど」


 ああ、もう何がなんやら。

 この人は、何を言っているのだろうか。

 宇宙人の次は未来人、もう、私を喜ばそうと頑張っているのなら、全く見当違いのサービスだ、私はオカルトに飢えてはいない。


「あの、、、いきなりそうは言われましても、、、、第一、それじゃあ後ろのUFOは、、、、タイムマシーンってことになりますが、、、」


「ええ、だからそうよ」


 まったく、何をあっけらかんと!。

 そんなデタラメな話し、どうやてて信じれば良いのだ。

 、、、しかし、このUFOは確実に宙に浮いている、その事実一つ取っても、幸には十分なほどの説得力があった。

 幸が一人なら、多分即日信じた事だろう。

 しかし、自分にはラジワットがいる、約束がある、悪い宇宙人に騙される訳には行かない。


「キャサリンさん、、、では、貴方が未来人だという証拠は、私に見せることは出来ますか?」


 すると、キャサリンは、少し迷った風に考えた後、静かにこう言った。


「では、、、、本当はだめなんだけど、これから未来で起こる話しを少しだけしてあげる」


 そうキャサリンが言うと、彼女は大量の情報を幸に語り出した。


 、、、、あなたが居た日本では、急速に経済が好転して、人々は浮かれたように世界中の文化を買い占めるようになるの、そして日本は少しだけ疎まれるようになる。


 産業は、今が重要な時期ね、ここで日本は大失敗をする、それが原因で、この時代「産業の米」と言われた半導体分野で遅れをとることになるわ、コンピュータの基幹部も、他国に奪われ、産業と生産の主導は、別のアジア圏にどんどん奪われて行くの、アメリカ主導で。


 ソ連が崩壊するわ。

 そして、旧ソ連は大混乱に陥る。

 でも、救世主の如く現れた指導者によって、経済と政治を回復させ、再び大国になるわ、、、ロシアという国家として。


 これから地球は急速に温暖化が進み、あなたのいる東京でも台風が巨大化し、多くの被害を出すようになって行くわ。


 大きな戦争が、何回か起こる。

 それは、現世で言うと、丁度この南付近の国家で、世界中が集結する世紀の戦争に。


 第3次世界大戦が起こるわ。

 残念だけど、死傷者数は、これまで人類が経験したどの戦争よりも桁違いに多くの犠牲者を出すわ。

 

 大きな戦争の後、世界政府が樹立される、これで人類から国境の概念が無くなって、ようやく戦争の呪縛から解放されるの。

 

 キャサリンの未来事件簿は、そのあまりの情報量に圧倒されてしまうほどだった。


 幸は、その唐突な未来予知に対して、頭がついて行かず、飽和状態に陥ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る