第71話 何年の日本

 キャサリンは、何も回答してこない幸から少し目を反らすと、窓を開けて再び煙草を取り出し、ライターで火を着けた。

 幸にとっては、何ら違和感のない光景、だが、わざわざ窓を開けて吸うのは、随分臭いに気を遣うのだと不思議に思った。


「キャサリンさんは、煙草を吸う事を、どうしてみんなに内緒にしているのですか?」


「そうね、、、この世界で、女性が煙草を吸うのを見たことがある?」


 そう言えば、、、、一度もないな、と幸は思った。

 それにしても、細い紙煙草を吸うキャサリンは、なんだか大人っぽく、格好いいと感じた。


「そうなんですね、だから窓を開けたんですね、私の父は、部屋の中で遠慮無しに吸うものですから」


 すると、キャサリンの表情が再び真剣になった、と言うより、少し強ばったと言った表情だ。

 幸は、それがどうしてか解らなかった、自分は今、父親が部屋で煙草を吸っているときの話しをしただけなのに。


「、、、、あなた、、、まさか、、ねえ、フェアリータちゃん、あなたは、何年の日本から来たの?」


 随分おかしな事を聞くなあ、と幸は思った。

 場所が変わったって、年代はどこの場所でも同じではないか、と。


「、、、、1985年ですけど、、、それが何か?」


「1985年、、、、」


 キャサリンは、再び黙ってしまった、真剣な表情のままに。

 自分は、何かおかしな事を言っただろうか、それとも昭和60年と答えるべきであっただろうか。

 いずれにしても、キャサリンという人物も、どうやら自分と同じ異世界人であることは間違いないようだ。

 だとして、なぜ1985年の部分だけに反応したのだろうか。


「ねえ、フェアリータちゃん、あなたはどうやって、この世界に来たの?」


「はい、、、えーと、、、これは言ってもいいのかどうか」


「フェアリータちゃん、あのね、これはとても危険なことなの、だからしっかり聞いてちょうだい、あなたね、時空間を転移しているの、普通は物理法則上、ここへは来ることが出来ないわ、だからね、その方法と言うのがとても重要なの」


「ちょっと待ってください、それでは、キャサリンさんはどうやってこの世界に来たんですか?、やっぱり神社を使って?」


「神社、、、?」


 幸は、思わず神社というキーワードを出してしまった。

 しかし、他に方法なんて考えつかない。 

 多分、キャサリンも自分と同じように、神社や教会を使って、こちらに来たのだろう。


「私はね、、、そうね、もう、現物を見せてしまった方が早いわね」


 そう言うと、キャサリンは窓の後方に向かって何かを呼んだ、「モーム」と。


 幸は、キャサリンも自分とおなじような「使い魔」を持っているのかと思った、ユキちゃんのような。

 しかし、夜空に現れたその姿は、幸が思っていたものとは大分異なるものであった。


「、、、まさか、、、キャサリンさんって、、、、宇宙人だったんですか?」


 幸の動きは硬直したままだった。

 それは、テレビの怪奇特集などでよく見る、あのUFOそのものだったのだから。


 キャサリンは、UFOをバックに、少し笑っていた。

 幸には、それが余計に怖いと感じたのだった。

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