第70話 煙草とライター

 ウブな幸を肴に、散々ワインを呑んで、すっかりご機嫌なキャサリンは、少し酔いを醒まそうと夜風に当たりに外に出ていた。

 周囲を確認し、煙草を取り出すと、ライターで火を着ける。

 「カチンッ」とライターの金属音が響くと、速やかにライターをポケットに入れて、彼女は煙草を楽しんだ。


「キャサリンって、煙草吸うんだっけ?」


 キャサリンは、吸った煙草の煙を思い切り吹き出すと、持っていた煙草を地面に投げ捨てた。


「ちょっと!、びっくりするじゃない!、急に後ろから声かけないでよ!」


「悪い!、、、男同士で盛り上がってな、、、姿が見えたから、小便って言いながら、こっち来たらキャサリンが見えたんでな、、、、あれ?、今どうやって煙草に火を着けたんだ?」


「嫌ね、最初から火を着けてこっちに来たのよ」


「へえ、、、、珍しいな、女が人前で煙草に火を着けるなんて、、、」


 キャサリンは、とても気まずそうな表情を浮かべる。

 そもそも、この世界で女性が煙草を吸うのは、非常に珍しいことと言えた。

 そんな時、幸もそこを通りかかるのである。


「あら、二人でどうしたんですか?、キャサリンさん、お煙草吸われてたんですか?」


 そしてキャサリンは、更に気まずい表情を深めた。


「ああ、フェアリータか、キャサリンがな、煙草の火を着けてこっちに来たって言うから、なんかおかしいと思ってな」


 幸は、マッシュがおかしな事を言うと思った。

 煙草の火くらい、ライターで着ければいいのに、と。


「それでしたら、ライターで火を着ければいい、、、、」


 そこまで言い掛けたところで、キャサリンが強引に幸の口を噤んだ。


「フェアリータちゃん、、、そう言えば例の件だけど」


「(モガモガ!)、、、何ですか?、例の件って!」


「、、、、ほら、、、ラジワットさんの件」


 すると、今度は幸が慌ててキャサリンの口を噤む。


「、、、キャサリンさん!、、そう言う事は、女性同士のお話と言うことで、、、」


 マッシュは一人、このやりとりが何なのか、よく解らないでいた。

 女同士で、一体何をしているのやら、と。


 二人は適当に、その場を濁して部屋に戻った。

 サナリアは入浴中のようで、部屋には二人だけ。

 すると、キャサリンが少し真面目な顔をして幸に問いかけた。


「、、、ねえフェアリータちゃん、、、あなた、この世界の人間ではないでしょ」


 幸はその一言に、とても驚いた。

 なぜなら、その事に気付ける立場にあるのは、ラジワットただ一人なのだから。

 しかし一体何故、そう思ったのだろうか。

 いや、、、キャサリンが何者か解らない内に、自分の素姓を話す訳には行かない、ラジワットが以前話していた、時空間を転移すると、修正に来る何かの存在。

 もしや、キャサリンも!。

 そうだ、最初から彼女はこの世界の人間にしては垢抜けていた。

 ショートカットにセンスの良い着こなし、浮き世離れした格好良さ、この世界の女性とは、明らかに異なる雰囲気。

 

「あのう、、、キャサリンさんは、私の何を見て、そんな風に思ったのですか?」

 

 肯定も否定もせず、まずは理由を聞いてみた。

 とりあえず、キャサリンが敵か味方かも解らない状態では話しが進まない。


「フェアリータちゃん、、、、この世界にはね、ライターは存在しないのよ」


 幸はキャサリンの言っていることに衝撃が走った。

 それは、決定的な言葉だった。

 ライター、、、確かにこちらの世界の人は、煙草を吸う時にライターなんて使わない、いや、そもそも紙巻き煙草を吸っていないのだ。

 幸は、キャサリンが敵か味方かの判断に迫られた。

 

 キャサリンは、依然こちらを真剣な表情で見つめているのだから。 

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