第69話 不良少女
ラジワットとワイアットの確執は、さすがに癒える事はない。
それでも、マッシュを挟み、利害が一致した者同士、怨恨は一度引っ込めて、仲間としてやって行く覚悟を決めたようであった。
ワイアットからすれば、父親の敵であるが、ラジワットからしても、自身の部下を戦死させた、敵軍連隊長の息子である。
それでも、この世界の騎士とは、戦って死んだ者は「名誉の死」であり、そこに私怨を持ち込む事は無礼とされていた。
帝国と王国との間には、長きに渡る国境紛争が根強く残っている。
その日の夕食は、前日のものとはまた別の意味でピリピリとした緊張感を持つのである。
それでも、昨晩のように「死」を感じることなく、大きな困難を乗り越えた後の食事は格別でああり、特にマッシュは嬉しそうにしていた。
「それにしても、ラジワットは勇敢だな、さすが連隊長閣下だ」
「なに言ってるのよ、あんた何もしていないでしょうに」
「そんな事無いぞ、俺だって、、、俺だって、、、あれ?」
結局、全てが円満に解決してはいるが、今回活躍したのは幸であって、男たちはあまり活躍の場が無かった。
ラジワットは攻撃に転じたが、ゼノンの蹴りによって吹き飛ばされ、ワイアットも攻撃態勢に入った所をラジワットに助けられた。
マッシュに至っては、500m全力で走った後、サナリアにひっぱたかれただけである。
、、、、マッシュは、何か罰ゲームでも受けたレベルに、、、何もしていない。
「、、、、なに?、、なんだよ?、、、やめろって、なんだか俺が三枚目じゃねえかよ」
一同は笑い出した、、、、サナリアも。
「おい、、、サナリア、、、、お前、当事者だろ!、何なんだよ、大体お前、最近俺の事、簡単に殴るよな、、、お前、世が世なら、処刑されてもおかしく無いんだぞ!」
幸は、さすがにひっぱたいたくらいで処刑は無いだろうと思いつつ、この人たちは、時々おかしな事を言うことがあると思っていた。
幸は、あれだけ大泣きした後のことだけに、この瞬間がとても幸福に思えてならなかった。
夕食を終えて、男たちは酒が入って激論を交わしていたため、女たちは先に部屋に戻ろう、という話しになった。
もちろんキャサリンは、いつものようにワインとグラスを片手に二階へ上がった。
女子部屋に入るや、サナリアが真っ先に幸に問いただす。
「ねえ、フェアリータちゃん!、あなた、ラジワットさんと、もううどこまで行っているの?」
まったく、なんてド直球な事を聞いてくるのだろう、この人は。
それでも、何でまた、いきなりそんな話しになるのか、最初は不思議であった、昨日までは、そんな話しにはなっていなかったのに、、、。
ん?
私、、、、、
「ラジワットさんが死んだら、私も死ぬ」とか、「本当は大好きです」とか、、、ユキちゃんに乗って、ラジワットさんに向かって突進して抱きついたりとか、、、
あー、、、、。
これは、、、私はもう、全部打ち明けてしまったんだった、、、、。
そう思うと、幸はとてつもなく恥ずかしくなった。
思えば丸一日かけて、自分はこのパーティメンバーに、自分がどれだけラジワットの事が好きか、、、好きで好きで仕方がないか、、、力説したようなものだ。
「ラジワットさんが死んだら、私も死にます」、、、、
ああ、、、もう、、むしろ殺して!。
なんであんな事を叫んでしまったのだろう!。
もう恥ずかしくて、ラジワットさんの顔を見れない!。
この旅に、二人の女子が加わってくれたことは、本当に幸いだと思った。
この感情を、自分ではどうする事もできない。
きっと自分は、年齢には不相応な事を、ラジワットに求めてしまうだろう。
幸の頭の中に、そんな単語が蠢いていた、、、、
「少女A」 「不良少女」
ああ、私は不良少女なんだわ。
もちろん、ラジワットは二人旅で幸が迫ってきたとしても、絶対に何もしてこない事はよく解っていた、それは、巫女の力が消失してしまうからだ。
それは逆に、幸が成人したとしても、二人の間に男女の関係が芽生えない事を意味していた。
それでも幸は、恋が芽生えたらどうしよう、と、妄想に耽るのである。
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