第68話 明日になったら

 ラジワットは、幸の前に行くと、目線を合わせるように身を低くして、そっと肩に手を置いた。


「いいかいミユキ、私にはね、見えるんだよ、君に流れる巫女の素地がね」


 それだけ聞いても、幸には事情が解らないでいた。

 見える?、なにが?


「あの、、、私って、他の人と何か違うんですか?」


 すると、ラジワットは、少しキャサリンを気にしながら少し考えて、こう言った。


「ああ、違う。君には明らかに巫女としての能力が備わっている、、このチケット、解るね、これは君が作ったものだね」


 ラジワットは、あの「肩たたき券」を幸に差し出して見せた。

 でも、どうしてこの話しの流れでこれが出てくるのかが、依然解らないでいた。


「君が書いたこのチケットにも、それは現れている、君の巫女としての能力がね」


「あのう、ラジワットさん、私にはよく解りません、、、、もし、私がラジワットさんが期待しているみたいな力を持っていなかったら、、わたし、、、わたし、、」

 

 幸は再び泣きそうな顔になる。

 そんな幸を抱き寄せたサナリアが、ラジワットにこう言い放った。


「もし、ラジワットさんの納得の行く力がフェアリータに無かったら、この子は私が引き取りますので」


「ああ、それには賛成だ、フェアリータには、俺も興味がある!」


 マッシュがそう言うと、サナリアは「信じられない」と言う目でマッシュを鋭く睨んだ。

 マッシュは、それが何の事かさっぱり解らないでいたが、ワイアットがマッシュにそっと耳打ちすると、マッシュは真っ赤になって「違う!、そんな訳あるか!」と照れながら、、怒った。

 マッシュはサナリアに、少女趣味があると勘違いされたのである。

 しかし、マッシュの興味は、少女としての幸にではなく、術師としての幸に、である。

 先ほどの地を這う雷、あれは一体何だったのか。

 そんな思いを遮るほうに、ラジワットが微笑みながらこう言ったのである。


「サナリア、君は本当に美しい心の持ち主だ、フェアリータの事を心配してくれてありがとう、でもそれには及ばない、仮にフェアリータが能力を持っていなかったとしても、彼女は私の連れだ、彼女の一生には私が責任を持つ、それに、彼女の能力は、明日に証明されるから、心配要らないよ」


 相変わらずの「男前」、そんな言葉に、サナリアもキャサリンも、少しうっとりしてしまった、、、、一生に責任を持つ、、、そんな大切な、それも重要な事を、笑顔で言い切ってしまうのだから。


 そして、その一言に、もっと茹で上がっているのが、幸である。


 一生、、、一緒に、、、、。


 もちろん、ラジワットにとって、幸がこれからも困らないように面倒を見続けるという意味で言ったのだが、幸はそれがプロポーズのように聞こえてしまったのである。

 

 さっきまで、大泣きしていた幸は、天にも昇るほど嬉しいと感じた。

 もちろん、それはすぐにプロポーズではない、と気付くのだが、それでも幸には、心から嬉しい一言であった。

 それにしても、明日になったら、なにが解るというのだろうか。


 明日に不安を残しつつ、幸はとても幸福な気持ちに包まれながら、村の中へ入って行った。

 今日、ここを出て行く時とは大違い、あの悲壮感に溢れた感情と正反対の気持ちで帰って来ることが出来たのである。


 幸は、今日のこの日の幸せを噛みしめながら、意気揚々と帰宅したのであった。

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