第67話 少女の涙
幸は、自分が巫女でないとラジワットに告げた。
しかし、ラジワットは、何故か不思議そうな表情を浮かべた。
「、、、いや、ミユキは巫女だぞ」
今度は、幸が不思議そうな表情をした。
ラジワットは、一体何を根拠に、自分を巫女だと思っているのだろうか。
「私、、、巫女としての力なんて無いんです、、、」
「いや、あるぞ、それは君が知らないだけで」
あれ?、、、えっ?、、、、、それは一体、、?
「、、、、どうして、、、ラジワットさんは、、そう思うんですか?」
「いや、、思うも何も、、、私の一族は、それが専門だからな」
専門、、、?、何の?、幸は、ラジワットの言っていることが、今一飲み込めないでいた。
そこに、サナリアが驚いた表情でラジワットに聞いた。
「失礼、、、ラジワットさんは、もしや、、、ハイヤー家の、、、」
ラジワットは、敢えてその質問に回答はしなかった。
しかし、その一言で、その場の雰囲気は一変した。
そう、マッシュ達四人組は、ラジワットが帝国の人間であることには気付いていた。
恐らく、かなりの高官であることも。
しかし、まさかあの「ハイヤー家」の人間とまでは、予想していなかったのである。
幸は、その場の空気が明らかに変わった事を察すると、ラジワットに目をやった。
そして、この均衡を崩したのは、ワイアットであった。
「そうでしたか、、、ハイヤー家の、、どうやら父が、お世話になったようですね」
その言葉とは裏腹に、ワイアットは少し武者震いをしながら、剣に手を当てていたのである。
「よせ、ワイアット、ここは俺に預けろ」
ワイアットの微妙な表情を横目に、同じく武者震いを感じながら、マッシュが小声で仲裁に入る。
「そうだな、、、君のお父上には、南部戦線では私も色々世話になったな」
幸は、お互いお世話になったのなら、仲の良い間柄なのかと思っていた。
しかし、それは皮肉であり、実際この両家は、南部戦線と呼ばれる双方の国境を挟んで睨み合う、軍人同士の間柄なのである。
ワイアットの父親は「ロームボルド連隊」を率いる南部戦線の猛者であり、敵味方にその名を馳せる闘将である。
連隊に「家名」が付く事は、非常に名誉なこととされた。
片やラジワットの「ハイヤー家」も、帝国の近衛連隊を率いる軍人の家系である。
そして、幸は思い出すのである、、、ラジワットがカウセルマン中佐達から「連隊長」と呼ばれていた事を。
「連隊長、、、、もしかして、ラジワットさんって、ワイアットさんのお父さんと、、、敵味方の連隊長同士??」
こうして、ようやく幸は、この不思議なパーティの人間関係を理解するに至るのであった。
そして、マッシュが間に入る。
「双方、思う所はあると思う、だが、今の俺たちには、それ以上に考えなければならない事がある、、、それは解るよな、ラジワット」
ラジワットは、そんな状況の中にあって、それでも大人の余裕を見せていた。
どうもラジワットとキャサリンは、いつも余裕を持っているように感じられる。
そして、サナリアも、そんな空気に一括入れるのである。
「今はそんな事、言っている場合じゃないでしょ!、フェアリータちゃんの事!、彼女は傷ついているのよ、、、可哀想に、こんなに泣いて」
男達の、高度な駆け引きも、少女の涙の前には無力と言えた。
それは、サナリアの言う事が、一番正しいと思えたからだ。
そして、マッシュとワイアットには、幸の持っている能力に、些か確認すべき事がある、と感じていたのである。
「ラジワットさん、貴方が言うハイヤー家が専門とする能力の正体を、フェアリータちゃんに説明してあげて!」
こうして、ラジワットは幸に事の詳細を話すのである。
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