第65話 そんな能力

「ラジワットさん、、、、私は一体、何をすれば良いのですか?」


 すると、ラジワットは笑顔でこう言った。


「彼の肩を、たたくだけだよ」と。


 それは幸にとって、全く意味の解らないことだった。

 自分が巨人の肩を叩くことで、何かが好転するとは思えない、これは何を意味しているのだろうか。


「あのう、それって、どういう意味なんでしょうか?」


 すると、ラジワットは再び笑ってこう言った。


「巫女の肩たたきには、成長をコントロールする力があるんだ、知らなかったのかい?」


 幸はそれを聞いて「へー」程度に聞いていたが、それが段々と取り返しのつかないことではないかと、恐ろしく不安になった、それは何故か、、。



 私、、、、そんな能力、無いわよね、、、。



 幸は血の気の引く思いだった。

 これまでラジワットは、自分を巫女としてこの世界に呼び、共に危険な旅をしてきた。

 しかし、それは幸が巫女として肩を叩くことによって、人の病を治せるという前提があった。

 しかし、幸は、人の肩を叩いて人の病を治した事など一度もない。

 ましてや、このチケットは、実の父親も一度たりとも使用していないため、考えてみれば、誰かの肩を叩いた事なんて一度も無かったのである。


 ラジワットは、自分にそのような能力があると思い込んで、自分をここまで連れてきたのではないだろうか。


 それは、決定的であった。


 自分には、ラジワットの期待に答えるだけの能力はない。

 きっとラジワットを失望させ、この楽しかった旅を、破綻させてしまうに違いない事実であった。


 幸は、絶望感に襲われ、その場に立ち尽くすしか無かった。

 

 どうしよう、、、何か言わなければ、、。

 そうは思うが、頭が真っ白になり、何も出てこない。

 次第に、幸の目には涙が溢れ、申し訳ない思いと不安から、ついには泣き出してしまった。

 慌ててサナリアが幸を抱きしめて慰める。


「どうしたのフェアリータちゃん?、何か怖いの?、もう大丈夫だからね」


 サナリアの優しさが、幸の胸を余計に締め付けた。

 最初から、もっとしっかり確認するべきだった。

 自分は、この世界に来るべき人間ではなかった。

 ラジワットの役に立てないのに、こんな所まで、何ヶ月も旅をして、、、。

 サナリアの胸で泣くだけ泣いたあと、もう自分は消えてしまいたいとさえ思った。

 そして、幸は駆けだした、村の方角にい向けて。

 それを見たユキちゃんが、全力で追いかけ、幸とユキちゃんは併走すると、ユキちゃんの背中に跨がるや、もの凄いスピードで駆けだした。


「おーい!、フェアリータ!、戻っておいで!」


 ラジワットがそう叫ぶが、もはや戻る気配すらない。

 残された一同は、ゼノンに一度村に帰る旨を告げ、明日、もう一度同じ場所で会おうという約束をして、五人とも村を目指した。


「ねえ、どうしてフェアリータちゃんは、村に行っちゃったのかしら」


「、、、そうだね、フェアリータはまだ、巫女としての仕事をしたことが無かったから、動揺したのではないかな」


 それを聞いた一同は、一様に驚きを隠せなかった。

 一度も力を発揮したことのない巫女を連れて、これだけの距離を旅するなんて、と。

 ただ、サナリアとしては、早く幸の元へ行き、慰めてあげなければと、そればかりを考えていた。

 それは、幸がもしかしたらラジワットが考えているような巫女としての能力を持っていない可能性を考えて。

 きっと、大好きなラジワットのために、自分が力不足であると落ち込んでいるに違いないと、それは痛いほどによく解ることだったから。

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