第64話 ゼノン
先ほどまで死闘を繰り広げてきた相手とは思えないほど、和やかに会話は進んだ。
この、体長5mはあろうかと思われる目の前にいる巨人、名を「ゼノン」と言う。
「あなたの家族やご友人は、近くに居ないのですか?」
幸は、単純にこのゼノンだって、親が居なければ生まれてくるはずかがない、それ故に、家族もなく、一人で生活していることを疑問に思った。
「私は数年前に、この土地に訪れた旅人です。普通の人は、私を巨人族だと勘違いし、恐れて攻撃してくるので、この巨人族が使っていた住居跡を使っていたのです」
すると、マッシュが質問する。
「ここは、元々あんたが住んでいたのではなく、別の巨人が居たということか?」
「ええ、そうです。多分そちらは本物の巨人族、痕跡から、野生の巨人で、ここで絶滅したと思われます、中に遺骨が散らばっていましたから」
そんなところで、よく生活できるな、と一同は思いつつ、ラジワットっだけは少し異なる感想を持っていたようだ。
「ゼノン殿、恐らくは我々には計り知れないほどのご苦労があったと思います、貴方はもしや、元々普通の人間だったのではありませんか?」
すると、ゼノンは少しだけ絶句すると、暫く考えて「そうです」と答えた。
驚いたのは、他のメンバーだった。
巨人族は、元から巨人族として生まれてくるが、ゼノンは人類の亜種、そして、生まれつきの亜種ではなく、何らかの影響により巨大化しただけの、人間なのだと。
「実際、体格が大きくなり始めてから、私は歳をとらなくなりました。そして、体のサイズは毎年大きくなり続け、もはや人間の住まう地域で生活は出来ません、故に、巨人族が住んでいた場所を流用していますが、もはやそれも困難なほどに巨大化してしまいましたので」
一同は絶句した。
彼は、言わば病人であり、被害者であった。
ただ大きいと言うだけで、人から下げずまされ、差別を受けて生きてきたのだ。
その事実は、一同に重くのし掛かった、なぜなら、たった今、自分たちもゼノンが大きいと言う事実だけで「悪」だと決めつけて討伐していたのだから。
ラジワットは、少し考えていた様子だった。
そして、ゼノンと同じく膝を着き、優しく語りかけた。
「私は、貴殿と同じような症状を知っている、、、そして、治療方法も」
ゼノンの表情が、一瞬驚きの表情とともに、明るく照らされたように力を漲らせた。
「その、、、その秘術は、一体どのようなものでしょう?、何か薬のようなものでしょうか?」
ラジワットは、少し迷ったように沈黙した後、鞄の中から一枚の紙を取り出し、巨人に渡した。
「よろしければ、これをお使いなさい」
それは、幸が良く知るものだった。
「それ、、、私の肩たたき券、、、」
ラジワットが少し迷っていたのは、このチケットが息子のための者であったためである。
それでも、ラジワットはこのチケットを2枚保有していた、それは、元々自分で入手したものと、あの日、幸を犯そうとしていた中年男性から奪ったもう一枚である。
「ラジワットさん、、、それって」
「ああ、ミユキ、君にお願いがある、彼の肩をたたいてあげて欲しいんだ、一回分のチケットを使わせてもらうから」
幸は、ラジワットがこの巨人に対して、一体何をしようとしているのが解らず、ただ動揺していた。
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