第63話 亜 種

 幸は、思い切り地面を刺すと、まるで雷が地面を這うように巨人のいる方へ流れていった。

 地面は少し揺れると、倒れているラジワットも少しバウンドした。

 その衝撃で、ラジワットは少し意識を戻す、死んではいないようだった。

 しかし、残念ながら、幸が放った雷撃は、僅かに巨人を逸れて進んだ。


「おい、、、、今のって、、?」


 マッシュが先ほどの雷撃を、信じられないと言った表情で見守る、それは他のメンバーも同様に。

 しかし、当の幸の興奮は収まらず、依然殺人鬼のような目をして巨人を睨みつける。


 そして、予想外の事が起こったのだ。


 それまで仁王立ちしていた巨人が、持っていたユキちゃんの後ろ足をゆっくり離すと、その場に跪いたのである。


 周囲の一同は、それがどう言う状況なのか掴みかねていた。


「、、、、ミユキ、、、大丈夫か?」


 ラジワットが、掠れた声で話しかけてくる。

 目の前の巨人も怖いが、ラジワットの方が心配だ。

 跪いた巨人を横目に、幸はラジワットの元を目指して走った。


「ラジワットさん!」


 ラジワットに抱きつく幸


「死んじゃったかと思ったよ!、、、もう、、やだよ、死んじゃやだから!」


 幸がそう叫びながら泣いていると、巨人が再び立ち上がり、幸とラジワットの方へ向かってゆっくり歩いた。

 そして、二人をじっと見つめると、巨人はまたその場で跪いた。


「勇敢な少女よ、お名前を聞いても良いですかな」


 一同、驚きの表情を見せる。

 それは、流暢な西タタリア語であった。

 巨人も言葉を話せる部族も多いが、この発音、声質、それは人間と非常に近いものである。


「あの、、、私たちはあなたが人間に危害を加えず、この地を去って頂けるのであれば、これ以上あなたを追いつめたりしません、どうでしょうか?」


 幸は、それが無理だと解っていても、なんとか説得がしたかった。

 こうして会話が成立したとしても、依然力の差は歴然だ、ラジワットを吹き飛ばしてしまう巨大な質量、もうあの一撃を食らったらさすがのラジワットも危険だ。


「私が村人を?、特に迷惑をかけるような事はしていないが」


「いや、お前、この村の家畜を荒らし、人を捕らえては食っているって話だぞ」


 マッシュが興奮気味に怒鳴る。


「私が人を、、、?、まさか、人になんて興味はない」


「どうしてだ?、巨人は人を食うんだろ?、人身御供の伝統も、あの村には残っていると聞く」


 威勢よく叫ぶものの、マッシュの足はガクガクと震えていた、いや、その場にいるほぼ全員が震えていただろう、ラジワットとキャサリン以外は。


「どうやらこの巨人、普通の巨人とは少し違うようね」


 キャサリンが冷静にそう言いながら、ゆっくりと一同に近付いてくる。


「なんだよキャサリン、、何か解るのか?」


「よく見て、この巨人、骨格が巨人族のそれとは少し違うと思わない?」


 確かによく見ると、肌は色白で背は高いが、巨人族独特の体格の太さが足りないとラジワットは思った。

 そして、ラジワットの脳裏に、もしや、という閃きが降りてくる。


「失礼、、貴殿はもしや、巨人族ではなく、人間の亜種か?」


 巨人は、ようやく少しだけ穏やかな表情となり、「そうだ」と一言返した。


「人類の亜種、、、、それじゃああんた、巨人ではない、、?」


「ああ、私は厳密には巨人族に属する巨人ではない、大きい人間を巨人と呼ぶなら、該当するのかもしれないが」


 そう言うと、意外と笑顔にもなれる巨人であった。

 そんな巨人の彼も、再び幸に深く頭を垂れると、幸にこう申し出た。



「先ほどの雷撃、貴女様は、どこか名のある術師とお見受けしました、抵抗の意志はありません、私は貴女様に負けたのです、この身は貴女に捧げます故、どうかお好きになさってください」


 、、、、一同は、一体何が起こったのかが未だ掴めていなかった。

 しかし、ラジワットだけは、この現象に納得していたのである。


 そして、それを冷静に見ている人物がいた、、、キャサリンである。

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