第61話 きっと叶うことのない思い

「ミユキ!、来てはダメだ!、戻れ!」


 ラジワットは、幸に必死でそう叫んだ。

 フェアリータと呼ばねばならない所を、もはや偽名か本名かもどうでも良い事にすら思えた。


 このままでは、全員死ぬ。


 それは明らかである。

 考えなければならない、このグループの最年長者として、自分がしっかりと判断しなければ、、、冷静になれ。


 そして、ラジワットの追い込まれた頭脳が、一つの閃きに辿りついた。

 そして、幸とユキちゃんは急速にラジワットへ近迫してゆく。


「ラジワットさん!」


 幸は、ラジワットに叱られると思っていた。

 それでも構わないとさえ思って、ラジワットに近づいた。


 最後の時は、二人で迎えたい。


 それは、きっと叶うことのない思い。

 ならば、最後くらい、自分の意志でラジワットと一緒にいることを選びたい、そう思って。

 しかし、ラジワットのリアクションは、幸の考えていたのとは少し違っていた。


「ミユキ、よくやった、ユキを私に預けてくれ!」


 あれ?、ラジワットさん、怒らないの?、、

 幸は考えていた真反対のリアクションに、少し戸惑った。

 しかし、幸がユキに乗って疾走した姿を見て、ラジワットは何かを思いついたようだった。


「サナリア!」


「マッシュ!」


 それは、愛し合う二人が感動的に接近する場面に似ていた、、、ある一点を除き。


 バチンッ!


 二人は抱き合って包容するかと思いきや、サナリアは再び思い切りマッシュの頬をひっぱたいた。


「、、、何?、、、えっ?、、何で俺、今、ひっぱたかれた?」



「あんたね、自分が何をしたか解っているの?、死ぬのよ!、あなた、自分が誰だか解っている?、残された国民はどうするの?」


 サナリアは、もちろんマッシュの事を思っての行動だった。

 しかし、マッシュは、自分が命をかけて守ろうとしたサナリアから、思いっ切り叱られた事にショックを受けると共に、、、、激昂した。


「なんだよ、そんなに言うならもう知らん、お前なんて巨人に食われちまえ!」


 そこへ、少し遅れてワイアットが到着する。

 息を切らせて、二人に追いつくと「何やってんだ!、喧嘩している場合か」と、こちらも激しく怒る。


 三人は振り返ると、巨人がこちらへ向かってゆっくりと近づいて来るのが確認出来た、その距離、もはや30m。


「、、、とりあえず、喧嘩は後回しだ、ワイアット、行くぞ、サナリアは下がれ」


 これだけ険悪な状況で、サナリアは自身のプライドからもちろん下がる事をしない。

 常識的に考えれば、この三人は確実に死ぬ。

 それは、ワイアットもよく解っていた。


「サナリア、、、マッシュを頼む!」


 ワイアットがそう言うと、マッシュを差し置いて単身巨人に向かって突進した。


「おい、ワイアット!」


 少し遅れてマッシュが走り出すが、ワイアットは本気だ。

 マッシュを庇い、時間を稼ぐつもりのようだ。

 ワイアットは、心の中でマッシュとサナリアの将来に望みを託しながら、必死で走った。


 さらばだ!マッシュ、、、、そして、サナリア


 剣を真横に構え直し、切り込みの態勢に入ったその瞬間だった。


「ワイアット!、よくやった!、頭を下げろ!」


 ラジワットだった。

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