第60話 恋の熱波

「サナリア!、サナリアー!」


 マッシュが叫ぶが、距離はまだ有に300mはあろうかと思われる距離だ。

 サナリアへの声は届かない代わりに、巨人の視覚は3人の剣士を捕えるのに十分な距離と言えた。

 そして、巨人は足を止めた。


 真っすぐに、女性陣へ向かっていたその足は、今度はマッシュの方へ向いたのだ。


「あのバカ!、なんでわざわざ自分から見つかりに行くのよ!」


「サナリア、、、聞こえなかった?、彼、貴女の名前を叫んでいたわ、、、、」


 キャサリンの、その一言を聞いたサナリアは、静かにキャサリンの方を向いた。

 暫く沈黙の時が流れた。


 サナリアの表情は、驚きから、覚悟のそれに変化してゆく。


「止めなさいサナリア、貴女が出て行っても、事態は変わらないわ!」


「じゃあ、マッシュはどうなるの?、考えていたって何も変化なんて生まないわ!」


 そう言うと、今度は岩陰からサナリアが飛び出して行く。

 マッシュとサナリアとの距離は、相対的に近付く速度を増した。

 幸は、二人の勇気と、お互いを想う心に感動すら覚えていた。 

 だが、その前に二人をどうやって助けるべきか、幸には皆目見当がつかない。

 幸は、ラジワットから預かった護身用の大きなナイフに手をやりながら、どうすべきか必死で考えた。


「キャサリンさん!、私達に出来る事って、、、?」


 キャサリンも、さすがに硬直しているようだったが、何か、誰かとコンタクトをしているようにも見えた、、、、独り言?、こんな時に、何を考えているのだろう。

 それでも、あの二人の勇敢な行動を目の当りにした幸は、足が竦んでいながら、それでもこの現状を何とか打開したいと、もう足は前に出かかっていた。

 第一、ラジワットだって、その後方から追いかけてきている、自分が何かをしなければ、ラジワットの命も危ない。


 幸は、サナリアの、切ないほどの恋の熱波にやられていた。

 それは、幸にとっても、ラジワットは命を捧げて守りたい大切な人だと言う事を、気付かせてしまったのだ。


「ユキちゃん!、行くよ!」


 幸も、もう考えるのは止めた。

 好きな人のために走る二人を見てしまった今、幸が出来る最大限は、ラジワットに向かって走る事、共に戦う事だと思えた。


「フェアリータ!、あなたまでどうしたの!、、、、もう、みんな感情的にならないで!」


 そうは言いつつ、キャサリンにとって、二人の行動はとても神秘的に見えた。

 たった一つの命を、誰かのために全力で賭ける事が出来る人生、それはもしかしたらとても尊い事、そんな相手がいるという時点で、もしかしたら平穏無事な人生よりも、価値のある人生なのかもしれない、そんな風に、二人が輝いて見えた。


「、、、おい、あれはフェアリータとユニホンの幼獣じゃないか?、、、その前にはサナリアまで、、、どうしたんだ、」


 ワイアットがその光景に唖然としていた。

 それはラジワットからも見えていた。

 ラジワットは、その状況が最悪の事態を示していると感じていた。

 なぜなら、飛び出した女性陣、そしてマッシュを庇いながら、あの特大巨人と戦わなければならないからだ。


 そして、幸はユキちゃんの背中に跨り、猛スピードでラジワットの方へ向かっていた。


「ちょ、、ちょっと!、フェアリータ!、待ちなさい!」


 息を切らせながら、サナリアの横をユキちゃんに乗った幸が駆け抜けて行く。


 ラジワットは、この全力疾走の後に、あの巨人と対峙することで、状況がより不利になっていると感じていた。

 さすがのラジワットですら、この状況を打開する策が出てこないでいた。

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