第58話 もう一つの「好き」

 その険悪な雰囲気は、夕食の時まで続き、それでも巨人討伐の壮行会のような形になった酒場には、討伐を期待して村中の人々が集まり、彼らを祝福した。

 そうなると、とにかく酒が振る舞われ、幸以外の大人たちは呑まない訳には行かなくなっていった。

 そして、マッシュとサナリアは、お互い決戦を前に、本当は仲直りしたいと思いつつ、その機会を失ってしまった。


「やあ、みなさん、巨人討伐の証には、ここに記念碑を設け、以降代々皆様をお祀り致します」


 まったく、縁起でもない!

 それでは明日全員死ぬみたいではないか!

 幸は、なんとなく今日の宴席を快く思っていなかった。

 ましてや、ラジワットから同行の許可すらもらえていない状況で、自分は明日、ここで待っていなければいけないのかすらわからない。


 それは嫌だ。


 どんな形であれ、ラジワットと一緒にいたい、離れたくない!。

 もはや、旅がどうこう、というより、幸にとってラジワットは生きる意義にすらなりつつあった。

 今回の事で、自分の感情が予想していたより遥かにラジワットを好きであったことに、自身でも驚いていた。

 人を好きになることが、これほどに苦しく辛いことだなんて、知らなかった。

 それ故に、幸はサナリアの気持ちを思うと、余計に切なくなった。

 それまでは自分の感情の昂りで、周囲が見えていなかったが、冷静になると、サナリアの気持ちが、やはり自分と重なった。


 サナリアが、酔いを醒まそうと外に出たタイミングを見て、それを追いかける人がいた。


 それは意外にもワイアットだった。


「あら、どうしたのワイアット、貴方も酔い覚まし?」


 サナリアがそう言うと、ワイアットは真剣な顔でサナリアを見つめる。


「サナリア、マッシュは昼間、あんな事を言ったが、君を思っての事だ、どうか許してやってほしい」


「相変わらず友達想いね、あなたは。まったく、マッシュも少しはあなたを見習ってほしいわ」


「、、、、サナリア、君はマッシュの事、嫌いなのか?」


 サナリアは、少し間を置いて、ただ笑った。

 しかし、ワイアットには、その意味が解らないでいた、感情はどちらに向いているのか。


「、、、、サナリア、、、酔った勢いで言うことだから、明日になったら忘れてくれ、、、君がマッシュより、俺の事が少しでも良いと思ってくれているのなら、マッシュではなく、俺にしないか」


 さっきまで、ほろ酔いのうっとりとした目でいたサナリアは、ワイアットのその一言で驚きの表情を浮かべた。

 彼女にとって、この一言は晴天の霹靂と言えた。

 マッシュと同様に、ワイアットもサナリアにとっては幼馴染、いつも一緒に居た仲間、友人。

 だが、それ以上に感じた事は無かった。

 マッシュは、物心ついた時には婚約者であったため、自然とそれは将来の伴侶として、まるで空気のように当たり前な存在であった。

 しかし、ワイアットは違う。

 よもや、自分に「好き」という感情を持っていたことは、今の今まで気づく事は無かった。


 ワイアットもまた、明日の戦いを前に、自分の気持ちを伝えておきたい、という感情があったのだろう。

 ここへ来て、このパーティは、新たな問題を抱えることになったのである。


 二人にとって、この事だけはマッシュに聞かれる訳には行かない、そう思っていた。


 しかし二人は知らない、この時、マッシュもまた、酔いを醒まそうと外に出ていたことを。

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