ゼノン討伐

第56話 巨人の討伐

「ラジワット、あんたなら、噂で聞いているはずだ、、、だが、公言した事は一度もない、、、、親父が危険な状態なんだ」


 その一言で、ラジワットは全てを悟った様子っだった。

 そして、いつになくラジワットの表情は深刻なものへと変化した。

 幸は、更に不思議に思った、初対面のはずなのに、どうしてラジワットは、マッシュの父親のことなど知っているのだろうかと。

 ラジワットは、そのまま暫く考えたあと、ようやくマッシュに一つの条件を課したのである。


「君たちが、どれほど真剣に物事を理解しているかを確かめたい、、、この村の先に、獰猛な巨人が住み着いて、この地方の村人を困らせていると聞く、先ほどこの店の店主から、退治の依頼があったが、私はフェアリータを伴ってのことだから、断るつもりでいたのだが、、、、どうだ?」


 いつもは威勢の良いマッシュの顔から、血の気が引くのが解った。

 それは、この世界で巨人が如何に恐れられているかの証明と言えた。

 幸は、この世界に巨人が居るということに、まず驚いたが、それらが人に危害を及ぼす、という事実にも信じがたいものがあった。

 本来、この世界は日本がある元の世界と構造上は同じはずなのだ。

 だから、魔獣と言っても、ユキちゃんは日本の動物園にいるサイの仲間である訳だし、基本的に生き物は現世とほとんど変わらないはず、、、、つまり、自分たちの居た世界にも、巨人が存在する、と言われているようなものなのだ。

 、、、ちょっと背の大きい男の人、って事かな?、

 幸は、そんな風に思う事にした、、、日本にだって、ジャイアント馬場という異様に大きい人もいた、知らなければあの人だって巨人かと思うだろう。


「、、、、その条件をクリアできれば、俺たちはロンデンベイルの療養所へ同行出来る、ということでいいんだな、、、」


「おいマッシュ、、いくら何でも、俺たちだけで巨人なんて無理だろ、お前正気か?、俺は絶対に反対だ!、お前の、、親父との約束がある、必ず無事に国へ返すってな」


 ワイアットはそう言うが、マッシュの目は本気だった。

 

「、、、、無理難題だという事は解っている、何も君たちだけで、とは言っていない、私も同行する、それならば、やるか?」


 マッシュとワイアットは、一瞬驚いた表情を見せた。

 それは、難題を突き付けた本人が損をするような条件だからだ。

 ラジワットは、一体何をしたいのだろうと、二人は不思議に思っていた。

 しかし、その謎に対する答えは、とても明快なものである。


「迷っているようだが、貴君らは少なからず国家というものを背負う立場、土地の民が困っていると聞いて、君たちはそこを素通り出来る程度の正義なのか?」


 マッシュと、そしてワイアットの表情が見る見る血潮に沸いて来るのが周囲には伝わった。

 それは、本来彼らが最も重んじなければならない騎士道精神のそれそのものと言えた。

 それは国の別を抜きにして、原点と言うべき大切な精神。


「解った!、あんたの言う通りだ、俺たちは旅人である前に騎士だ、困っている民に背を向ける事なんて、出来ないよな!」


 マッシュは、ワイアットの方を向くと、ワイアットも、ならば仕方がない、と言った表情を見せた。

 こうして、剣士3人による巨人の討伐が翌日決行されることとなった。


「サナリアさん、済まないが、その間、フェアリータをお願いしてもいいかな?」


「あらラジワット、私達はもう敬称を付けずに話せる間柄になったんじゃないかしら?」


 サナリアのその言葉は、とても愛情に満ちた言葉と言えた。

 それは、敬称も付けずに会話が出来るほどに理解し合えた仲なのだから、フェアリータの事は当たり前に面倒を見る、という事を指していたのだから。

 ラジワットは、心からの感謝の意味を込めて、優しくサナリアに微笑むと、彼女は少しだけ赤面した。

 

 、、、、それを見た幸は、一体どれだけ男前なんだろう、と半ば呆れ顔になっていた。

 ただ、サナリアからラジワットに一つの提案がなされた。

 それは「自分たちは既に一つのパーティなのだから、男だけで討伐へ行くのは反対である」と。

 気の強い、サナリアらしい一言と言えた。

 しかし、ラジワットはそれに対して簡単にOKを出せずにいたのである。

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