第55話 家同士の約束

「あの、サナリアさんの婚約って、、、もしかして家同士の約束って言うやつですか?」


 幸は、自身がそれまで東京で不遇の半生を歩んで来たため、サナリアがもしや、望まぬ結婚に悩んでいるのでは、と少し心配になっていた。

 しかし、それを聞いたサナリアは、少し複雑な表情をした。


「大丈夫よ、サナリアはそれなりに彼の事を愛しているわ」


「ちょっと、キャサリン!、あんた私のお母さんじゃないんだから、なんなの?、なんでそんなこと解るの?」


 恥ずかしそうにするサナリアを、それもまた嬉しそうに眺めるキャサリン。

 どうやら酒の肴は幸だけと言うわけではなさそだ。


「そうね、、、マッシュはね、幼い頃からずっと一緒だったし、なんと言うか、、、、出来の悪い弟みたいなものなのよ、、放って置けないって言うか」


「あら、それだけの理由で、こんな遠い異国の地へまで一緒に来ないでしょ!、素直じゃないんだから」


 サナリアのリアクションはとても直線的だった。 

 14歳の幸でさえ、サナリアが昔からマッシュの事が好きだという事が手に取るように解った。


 それを満足そうに見ているキャサリン、ああ、女性同士の話は、やっぱり楽しい!、恋バナ、いい!




 そんな事情もあり、女性陣はほぼ「二次会」を部屋で楽しんだため、一様に寝不足であった。


 こうして3人は、ゆっくりと食堂に降りてきて、朝食を採った。

 当然、ラジワットはいつもの通り、一番早くに起きて。

 

「フェアリータがお世話になったね、ありがとう」


 ラジワットがお礼を言うと、二人は恥ずかしそうに笑った。

 その前に座っているマッシュが、とてもバツの悪そうに座っているのを見て、サナリアは切なくも優しい視線を向けていた。

 幸は、サナリアが本当にマッシュの事が好きなんだと、あらためて感じた。


「まったく、しっかり謝ったの?、決闘なんてしていたら、あんた今頃、死んでたわよ、器が違い過ぎなのよ、身の程を弁えなさいよね!」


 好き故に、厳しく当たってしまう、、、好き故に。

 それは、この場で理解していないのは、当のマッシュ本人だけである。

 それが幸には、このパーティと本当に仲間に慣れたような気がして、少し嬉しく思えた。


「、、、さて、ラジワットさん、、これからの話だが、、、」


「いいよ、ラジワットで。私もマッシュと呼ばせてもらう」


「なら、、、ラジワット、昨日の事でもう理解出来ていると思うから話をするが、俺たちはロンデンベイルの療養所の入門許可証を持っていない、あの許可証は、一つあれば随行者の制限はない、、、、」


 マッシュが、最後の言葉に詰まらせた。

 それは、本来頭を下げるという行為を、最も嫌う人間特有の事と言えた。


「、、、、私の通門証で、一緒に入りたい、、と?」


「ああ、こんな事を頼めた義理ではない事は、十分承知の事だ、だが、そこを押して、頼みたい、、、貴君の望みを叶えるだけの報酬を準備する、それは約束だ」


 幸は、どうして一緒にロンデンベイルの療養所に行くだけのことで、これだけマッシュが神妙にお願いをしているのかが、不思議でならなかった。

 

「マッシュ、君たちは、どうしてロンデンベイルの療養所へ行こうとしているんだ?、見た所、君たちのメンバーには、それを必要としている人物が居るようには見えないのだが」


 ラジワットは、まさに一番の核心に触れた。


 そして、暫くの沈黙の後、ようやくマッシュが重い口を開いた。

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