第47話 ちょっと意地悪
焚き火を挟んで、二人の沈黙は続いた。
ラジワットは、このとき幸が一番望んでいる事は何だろうと考えていた。
この問いに対する最適解とは、一体何だろうかと。
ラジワットは、それが金銭的なものでは無いと、すぐに気付いていた。
しかし、、、だとしたら、自分は幸に対して、何をしてあげられるのだろうか、、。
そして、もう考えても結論が出ないと思ったラジワットは、今考えている自分の希望について、そのまま幸に伝えようと考えた。
「ラジワットさん、ごめんなさい、私、ちょっと意地悪を言いました、髪は切ります、大丈夫です」
ラジワットは、返答に時間を置きすぎてしまった事を後悔した。
幸だって、本当は大人に甘えたいだろう。
自分だって14歳の頃は、甘えたくても誰にも甘える事のできない厳しい環境に放り出されていたのだから。
、、、、だから、幸には、自分の本音を伝えなければいけない、と思った。
「ミユキ、、、髪を切る対価として、、、君が嫌でなければ、私の家族とならないか?」
、、、、、、、、、、!ーっ
はい?、今、、なんと?、、、、申されましたか?
家族、、、ですか?
いや、ちょっと待って、家族にも、色々ですよ!!
養子として娘になれと?、それともメイドとして雇ってくれる?、、、とか?、、、まさか、、、いや、、、まさかね。
ちょっと、、、、ラジワットさん?、どうして私をじっっと見つめるの?、私、勘違いしちゃうよ、、、でも、どんな立場の家族だって、私、とても嬉しいですよ!
「、、、どうして泣く?、、、私と家族となるのは、、、嫌か?」
「違うんです、、、私、嬉しくて、、、」
ラジワットは、幸のその一言を聞いて少し安心した。
この時ラジワットが示した家族の意味は、自身の息子の姉になってほしい、という意味であった。
当然、ラジワットも幸を全く女として見ていない訳ではないが、よそ様の家の娘さん、というバイアスがかかっていた。
こうして、幸とラジワットとの間には「肩たたき券」という一枚の紙以上の契約が交わされたのだった。
幸は、それまで現世に帰るのか、このままこの世界で生きて行くのか、という日々の不安から解放され、意気揚々とラジワットとの旅を楽しむ事が出来た。
毎日歩きっぱなしの地味な旅路ではあるが、幸はちっとも辛くなんて無かった。
男性の理想像であるラジワットからの家族にならないか、との申し出、日本に未練が無い訳ではないが、この世界の美しいもの、可愛いもの、素晴らしい世界観を見て来た幸にとって、もうこの世界で生きて行く事は、何ら違和感なく受け入れられるものである。
それはまた、日本での幸の生活環境が劣悪過ぎた事も要因であった。
そんな幸であっても、いよいよ山脈を超え始めた時には、その急峻な勾配に、息が上がってしまった。
恐らく、高低差だけが原因ではない、、、そもそもの空気が薄いのだ。
幸は、ラジワットに迷惑を掛けまいと、かなり無理をして登っていたが、それもやがては隠せなくなって行き、遂には足が止まってしまうのである。
「大丈夫か、ミユキ?」
ラジワットは、いつもの通り優しい。
それでも、幸は激しい頭痛に耐えていた。
少し気持ちも悪い。
ラジワットは、ユキちゃんに背負わせていた荷物を全て自分で背負うと、その空いたユキちゃんの背中に幸を乗せて、更に先へ進んだ。
それでも、幸の頭痛は止むことは無かった。
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