第42話 ラジワットの過去

 山賊5人衆と別れてからも、二人は随分歩いたが、その先に人の気配はなく、いよいよ中間に村が存在しない地域に、旅路は駒を進めたようだった。


 ラジワットは、完全に日が暮れる前に、今日の宿営地を決め、野宿の準備を始めた。


 やはり、こういう事は手際が良く、さっきまでこんな所で今日は寝るのか?、と驚くほどだった場所が、ラジワットの一手間で、なんだか「あ、これは寝泊まり出来るな」というレベルに豹変するのだから凄い。

 父親とキャンプの経験もなく、ここまでディープなアウトドアは経験が無幸は、実はちょっぴりワクワクしていた。


 夜寝るときは、火の番を交代でする事になっているので、幸が最初に寝ることになった。

 流石にもう山賊が出るような地域ではないが、狼などの肉食獣が出る可能性はある。


 春先とは言え、まだまだ寒いこの地方で、ラジワットが準備した焚き火の火は、本当に心が安まる。

 ラジワットは、焚き火にヤカンのような物を置いて湯を沸かずと、簡単なスープとお茶を入れてくれた。

 夕ご飯は、昼間にバシラがお土産にくれた弁当だ。

 広げてみると、昨晩の夕食会で食べたものの残りなのか、弁当にしては随分豪華な中身に見えた。

 二人は、あの5人の事や山賊村での事を話しながら、焚き火を挟んで色々話をした。

 他愛の無い会話ではあるが、直火を囲んでの会話は、なんだかキャンプをしているようで楽しい。

 心なしか、夕食もスープも、いつもより美味しく感じられる。

 こんな風に、焚き火を囲んでの団らんもいいものだな、と幸はささやかな幸せを噛みしめていた。


「ラジワットさん、あの山賊村の村長さんが言っていた、前にあの村を訪れた時って、どんな時だったのですか?」


 それは、なんとなく話しの流れで聞いたことだった。

 しかし、その質問は、やがてラジワットの過去について語られる内容であったのである。


「そうだな、単純な話だよ、前回ここを通ったのはタタリア山脈を越えた保養所のある所までの行き帰り、、、行は息子と妻が一緒だったが、帰りは一人だったからな」


 帰りは一人、、、それは奥様を保養所へ置いて来た、ということだろうか。

 幸は、どうも地雷を踏んだことに気付いたが、もうラジワットと随分一緒にいると言うのに、奥さんの事が出て来たのは初めてであり、どうしてもその先が聞きたいと思ってしまった。


「あの、、、奥様は息子さんと?」


「いや、、、帰路で盗賊に捕まり、、、」


 幸は、やはりこの先を聞くべきではなかった、と、自身の好奇心を酷く後悔した。

 ポーカーフェイスを装っているものの、いつも優しいい目のラジワットは、やはりどこか寂し気なように感じられた。

 

 薪が燃える音だけが、この静寂な空間に静かに響く。

 さっきまで、あれほど楽しいと感じていた野宿が、とても寒々と感じられた。

 さすがに今日は、これ以上話す事は出来ないと思い、幸は毛布に包まり、先に就寝しようと思ったその時だった、ラジワットが一言、先ほどの続きを話し出すのだった。


「彼女は、、、、私の妻は、日本人だったんだ」



 その言葉で、、毛布を被ったばかりの幸に、衝撃が走った。

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