第41話 妹を差し出す

 山賊の村を後にする幸とラジワットは、再び二人と一匹での旅路に戻る、、予定であったが、山賊の5人衆は、道中の護衛といい、そのまま付いてきてしまった。


「ねえラジワットさん、この人達、どこまで付いてくるんですか?」


「どうした、心配か?、旅は多い方が良いが、大丈夫、彼らも野宿はしたくないだろうから、明るい内に帰れる付近までだろう」


 幸はそれを聞いて、少し安心した。

 国境を越えた時点で山賊に襲われた、と言うことは、今後もこのような山賊は居るんだろうと思えば、この護衛は有り難いはずである。

 しかし、幸としては、この5人よりも遙かに強いラジワット一人居てくれれば、それでもう十分に頼もしいものであったし、山賊の5人は、なんとなく怖いと感じてしまう。

 そして、昼食のために休憩場所としたところで5人はテキパキと昼食の準備をしてくれた。

 幸が自分がやります、と言っても、作業を譲ってはくれなかった。

 それも、幸に怖い思いをさせた5人からの、せめてもの償いのようだった。


「フェアリータ様、村の粗末な昼食ですが、ここで最後、存分に味わっていってください」


 バシラはそう言うと、男性の昼食準備にしては妙に丁寧で繊細な食卓を作ってくれた。

 それは、この地方の料理が、軽食とは思えないほどしっかり並べられ、幸の目を楽しませた。


「ラジワット様、この先はいよいよ急峻な山岳地帯に入ります、次の村までは大分ありますから、もし何かありましたら、いつでも引き返して我が村にお出でください」


 バシラは、本当に自分たちの事を気遣ってくれているのがよく解った。

 この世界の人は、なんとなく悪党であってもお人好しな印象を受ける。

 それでも、ここにいる5人は、自分たちには親切にしてくれるが、場合によっては旅人を襲う犯罪集団であることには変わりない。

 この人たちが、しっかりと更生して、山賊から足を洗ってくれたらと、幸は心から思った。



 地域の特産品で上手にまとめられた昼食に、取れたての果物まで最後に出してもらい、楽しい昼食は終わってしまった。


 バシラ達は、最後に後片づけをすると、二人に夕食用と言って、何か弁当のようなものまで持たせてくれた。

 5人は別れ際、こちらに帰る時には、是非村に立ち寄ってほしい、セシルも喜ぶので、と念を押した。

 どうやら、バシラまで妹のセシルを嫁に出したいと考えていたようだ。

 この地方の仕来たりなのか、一度忠誠を誓った君主には、一番大切なものも差し出すような印象を受けた。


 、、、、だからって、妹を差し出すなんて、と幸はその行い自体に恥ずかしさを感じた。

 自分に兄がいて、そんな申し出されたら、、、、ひゃーっ、、!


 考えてみれば、結婚って何なんだろう、って幸は思うようになっていた。

 東京にいた頃は、恋愛結婚が当たり前だと思っていたので、大人はどうしてお見合い結婚なんて出来るのだろう、と幸は不思議でならなかった。

 好きでもない、初めて会った人の事を生涯の伴侶として愛する事が出来るの?、それは14歳の少女にとって、捕らえようのない話である。

 今回の場合は、セシルもラジワットの事をとても好いているのが解るので、幸の理解の範囲であるが、この5人が襲撃した男が、熊のような大男で、妹を差し出します、という理由で、いきなり嫁に出されたら、、、、いや、そんな事は考えられない。


 そして、幸は思った、そういうリスクがあるからこそ、この世界の女達は、何番目であろうと、強くて財力があってハンサムな男の元へ嫁ごうと一所懸命なんだ、と。

 年がほとんど同じ、アシェーラですら、あの猛アタックなのだから。

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