第39話 セシルの決意
山賊村の村長の家で、夕食会をしようという話になった。
どうやら、今日はラジワットの来訪を祝ってのパーティーとなりそうだった。
幸は、夕食会の前に風呂に入るよう勧められた。
ランカース村を出てからもう10日も風呂に入っていなかったから、今日の風呂は本当に有り難かった。
重厚な旅の被服を脱ぎ捨て、幸は風呂場へと足を進める。
ランカース村と同じで、サウナが中心の浴室は、よく整備され、温度調節もされていたから裸でもまったく寒くなく快適であった。
身体を洗い流し、サウナを楽しんでいたところに、誰かが入って来た。
幸は、思わずラジワットが入って来たのかと思い、咄嗟に前を隠すが、そこに立っていたのはここの家の長女であるセシルであった。
「湯加減はどうですか?」
「はい、とても気持ち良いです、、よ」
なんで敬語?、と思ったが、自分は随分VIP待遇なんだとあらためて思った。
そして、先ほどのやり取りを思い出し、幸は他人事ながら、少し恥ずかしくなり、下を向いた。
目の前のこの人は、ラジワットが受け入れていれば、今夜、初夜を迎えている所だったのだと。
危うく未遂に終わり、喜んでいるのだと幸は思っていた、、、、。
「セシルさんは、ラジワットさん事は以前から知っていたのですか?」
「ええ、、、もう6年も前、一度この村を訪れた事があるんです。山賊の掟で、相手が自分たちよりも少ない人数で負けた場合、その身は差し出さなければならない決まりがあります、父は6年前にラジワット様を襲撃し、負けたのです、故に父と父の家族は、ラジワット様が望めば全て差し出す掟になっています、ですので私も、、、」
幸は、セシルがそんな山賊の掟を守り、健気に自身をラジワットに差し出そうとしていたのだと思った。
そんな旧態依然とした掟に腹立たしさを感じた幸は、セシルにこう言ってのけた。
「大丈夫ですよ!、ラジワットさんの優しさは本当に凄いんです!あなたを一晩のお供になんてしませんから、そんな男性ではありませんから!」
すると、セシルは少し寂しそうな表情を浮かべた。
サウナで隣に座り、語り合う二人、しかし、なんとなく会話が噛み合っていないような気が幸はしていたのだが、その理由はセシルの次の言葉に詰まっていた。
「、、、そうですよね、私なんて、ラジワット様のお供なんて、無理ですよね、、、」
あれ?、、、私がイメージしていたリアクションと、少し違う、、、幸はそう思い、話の最初から振り返って考えてみた。
ん-!
もしかして、セシルさんって、、、、
「あの、、、セシルさんって、、もしかして、ラジワットさんのこと、、、」
「ええ、もちろん、お慕え申しておりますわ!、、と言うか、ラジワット様を狙っていない女性なんて、この世にいませんからね」
、、、、なんですとー!っ。
ラジワットさんの立ち位置、そんな感じ?
アシェーラが発育良すぎたんじゃなくて、この世界の女性は、みんなラジワットさん狙い、って事?。
これは、大変な男性と旅をしているものだと、幸は驚きを通り越し、呆れてしまうほどだった。
「ねえ、フェアリータ様は、ラジワット様の、、その、、どのようなご関係なのかしら?」
「えー、、私はですね、、、何なんでしょうね?」
ああ、前にもこんな事があったような気がする。
あのモテ男、一体どれだけの女性を悲しませるんだろう!
もう、女性は一人を見ていてほしいな、と、幸はそれが仮に自分でなくとも、ラジワットの奥さんは一人であってほしいと感じてしまう。
それは、現代日本の価値観で考えれば、ということではあるが、ラジワットが理想の男性像であっても、並行的に理想の父親像でもあるため、そんな風に感じてしまうのである。
しかし、この目の前の女性は、本当にラジワットの「もの」になる決意をしていたのかと思うと、幸は負けたような気さえしてくる。
自分が同じ立場あったら、覚悟を決める事なんて出来ただろうか、なんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます