第38話 山賊の村

「大変失礼を致しました、私はこの先の村に住まいます、山賊一家の長、バシラ・ロウメイと申します、失礼ですが貴方様は名のある剣士様とお見受けしました、我々山賊の掟に則り、貴方様の下部とさせて頂けませんでしょうか」


 はあ、、、下部?、、、あれ?、なんだか急に旅の仲間が増えた感じ?、、、えー!


「バシラと申したな、ロウメイの一族は、この地方では名の通った山賊一派だ、先代とは面識がある」


「、、、あの、、、もしや貴方様は、ハイヤー公爵家の、、ラジワット様ではございませんか?」


「何故私を?」


 すると、山賊のリーダーは、急に満面の笑顔になった。


「お忘れですか、父が以前貴方様を襲った時に、同じく木剣で倒され、我が一族の村にお連れした時、、、」


「、、、おお、ロウメイの所の次男か?、、大きくなったな、解らなかったぞ」


 あれ?、、、山賊にも友人が?、、、、ラジワットさん、さすがに好かれ過ぎじゃないですか?、山賊ですよ、悪党ですよ!。

 そうは言いつつ、この山賊連中にとってラジワットは恩人であるようで、先ほどの非礼を何度も詫びると、どうか村に立ち寄ってほしいと懇願してくるのである、、、父親も喜ぶから、と。


 なんだか、おかしな方向に話は進んでしまった。

 気を失っていた他の4人も、まるで借りて来た猫のようにおとなしくなってしまい、幸はとんだ拍子抜けだと思った。

 幸が最初にラジワットと練馬区で出会った時、彼は躊躇なくチンピラを切り捨てた。

 あのイメージがあるから、彼は悪に対して全く遠慮なく切るタイプの人物だと思っていただけに、この展開は意外としか言いようが無かった。


 こうしてこの日の宿は、思いがけず山賊の村に案内されることとなった。


 山賊たちに襲撃を受けた場所から歩いて30分程度の場所に、その村はあった。

 「山賊の村」と聞いていたから、てっきりもっと厳つい印象の村かと思いきや、意外とランカース村を少し小さくしたような普通の村だった。

 唯一違う点は、泉が無いため、どうやら電気は通っていないようだった。

 それ故、夕方になると、どの家からもランタンの優しい明かりが灯り、山賊という単語からは想像もつかないほど、穏やかな風景となっていた。


「おお、これはラジワット様!」


 ロウメイの家に入るや直ぐに、初老の大男がラジワットを迎えた。

 

「ガーセル、久しいな、元気か?」


「ええ、元気にやっております、、、この度は当家の者がとんだご無礼を、、、本当に申し訳ありません、この者のお命、如何様にされても構いませぬ、どうかお納めください」


 幸は、この人何を言っているのか、と不安になった。

 父親だと言うのに、自身の息子の命をこんなに簡単に差し出してしまうなんて、と。

 でも、ラジワットが、バシラさんの命を取ったりしない、という事は、さすがに解る。

 多分、この地方の仕来たりなんだろう、と。


「なんだか、このやり取りも懐かしいな、先代は、、、」


「ええ、一昨年に、、」


「そうだったか、、、もう一度会いたかったな」


 そんな昔話をしながら、命を差し出されたバシラは、下を向いたまま恐怖に震えていた。

 これじゃあまるで、死刑宣告を待つ囚人のようだと幸は思った。


「ガーセル、お前の息子だ、命を取るつもりはない、もう少し家族を大事にしなさい、ここに居る少女、フェアリータに危害を及ぼしていたら、5人とも殺していたがな」


 ラジワットはそう言うと、大笑いしてお道化て見せた。

 それは、彼なりのジョークだったのかもしれないが、それを聞いた村長であるガーセルは、幸がどうやらVIPであると認識してしまい、それ以降、なんだか随分なもてなしを受けることとなる。


 夕食前、ガーセルと談笑するラジワットの元に、母親を伴い一人の女性が連れて来られた。


「ラジワット様、私の娘、セシルです、覚えておられますか?、今晩はこの娘をラジワット様のお供とさせます、如何様にでもしてあげてください」


 ん?、、このお爺さんは、今、なんて?、

 「今晩はこの娘をラジワット様のお供に」って言っていたように聞こえたんだけど!。

 ちょっと待って?、

 それって、ラジワットさんの、、、夜の、、お世話まで含まれるみたいに聞こえちゃうんですけど!

 このお爺さん、何サラッとエッチな事を言っているの?

 そもそも、このお嬢さん、可哀想でしょ!

 いくら自分の娘とは言え、自分勝手に夜のお供なんかにしたら可哀想じゃない!、人権侵害だわ!

 

 そう思った幸であったが、当の本人は礼式に則り、母親の隣で畏まり首を垂れていたものの、顔は紅潮して、、、もはや女の顔になっていた。


 、、、、ラジワットさんがモテすぎるのも、私のメンタルには悪いんだわ、そう幸は思った。

 

「そうか、君はあのセシルか!、大きくなって、今、何歳になった?」


「娘は今年で19歳、適齢期にございます」


「ほう、美しく成長されたな、セシル、私の事は大丈夫だから、ここにいる連れのフェアリータと仲良くしてやってくれないか」


 そう言うラジワットに、声を発せず一度だけ深々と頭を下げるセシル。

 お客さんとして扱われる幸は、どうしてラジワットが自分の事を幸ではなくフェアリータの方の名前を使ったのだろうと、少し不思議に思った。

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