第28話 巫女殿を娶る

「フェアリータ!、こちらよ!」


 んんん?っ、アシェーラ?、、、、あらま、随分着飾って。

 アーシェラだけではない、さっきまで学校にいた女子生徒も、少し上の学年も、、、と言うか、この村の若い娘たちは、ほぼ全員が妙に着飾っていて、とても綺麗だった。

 民族衣装なんだろうか、西洋のドレスに、フェルト地の可愛らしい装飾や帽子、この世界のオシャレは、日本のものに比べて可愛いものが多い。

 そして、女性だけではなく、男性も着飾っていた。

 この世界は、服装に赤色を使う習慣があるのか、男たちも赤い正装をしている。


「みんな、赤い服装が多いんですね」


「ああ、この地方は、雪深いから「赤」という色はそのまま「美しい」と同義語なんだ」


 雪深いと、どうして赤が美しいなんだろう、と幸は思ったが、確かにこの地方は雪深いためか基本白いか青いものが多い、それ故に晴れた日の夕焼けの赤は、本当に心を奪われるほどに美しい。

 そう言うことか、と思ったが、幸の服装は、白を基調とした布地に青いストライプが入ったもので、この地方の正装とは真逆色調であった。


「まさか、これほど早くに宴があるとは思って居なかったからな、ミユキにも正装を買っておくべきだったな」


「いえいえ、私はもう十分に頂いていますから、それに、この服装も、私、気に入っているんです、とても可愛いですから」


 それでもラジワットは、赤い正装を幸に買ってあげたかった。

 きっと、似合う事だろうと。


「ところで、フェアリータとは誰の事だ?」


「あ、、、いえ、、その、、、」


 幸が恥ずかしそうにしていると、ラジワットが気付いてこう言った。


「ああ、、ミユキ(幸せ)でフェアリータか、、、なるほど、、、これは良い名だ、私もそう呼ぶとするかな」


「いや、止めてください!、流石に恥ずかしいですから!」


「何を恥ずかしがる、良い名ではないか、なあ、皆もそう思うだろ」


 やめて!、皆さんに同意を求めないで!

 ラジワットさんが同意を求めたら、みんな「はい、そうですね」ってなるじゃない!、、、。


 こうして、幸はフェアリータ確定となった。

 それでも、ラジワットは使い慣れたミユキと呼び続けるのだが、、、騎士達は、幸の事をコードネーム「フェアリータ」として使い始めるのである。


 村の中央広場には、まだ雪が残る中、キャンプファイヤーの如く大きなたき火が準備され、それを囲うようにテーブルとご馳走、そして酒が準備されていた。

 焚き火とランプに照らされた夜の村は、とても幻想的で、誰もが美しく見えた、、、いや、多分、本当に美しいのだろう。


 村の中央の、一番の席に案内された5人は、とにかく盛大に歓迎を受けた。

 特に凄かったのは、騎士3人に対する村娘たちの接待ぶりだった。

 なぜか、ブラン軍曹とワイセル中尉の方が、集まる女性の数が多いように感じられた。

 アシェーラも、幸をだしにラジワットと話がしたそうな素振りである。


「ねえフェアリータ、私たちに、ラジワット様をご紹介頂けないかしら」


 これだけオシャレしてきたのだから、流石に紹介してあげないと悪い気がして、幸は彼女達を紹介した。


「ラジワットさん、今日友達になったアシェーラです」


 すると、彼女は一歩引いて、深く頭を垂れると、この世界のマナーに則り丁寧に挨拶をした。


「お初にお目にかかります、わたくしヨウヒム家長女、アシェーラ・ヨウヒムと申します、以後、お見知り置きを」


 すると、ラジワットは、まるで娘の友人のように、優しい笑顔でアシェーラに「ミユキと仲良くしてくれて、ありがとう」とお礼を言ってくれた。

 それを聞いたアシェーラは、もう顔を真っ赤にして、うっとりとラジワットを見つめる。

 幸は、キューピットがハートを射抜いた瞬間を目撃したような、何か良いものを見た気がした。

 

「あの、、、ラジワット様は、次の奥方をお迎えするおつもりは御座いませんの?」


 おーーい!、ちょっと、アシェーラ!、急に何を言い出すの!

 これまで奥方の話は避けてきたのに、なにそのド直球な質問!

 しかし、やはりラジワットは子供の質問としながらも、少し寂しげな表情を浮かべ、こう言うのだった。


「今のところ、私は新しい妻を娶る予定は無いかな、、、、ミユキはどうだ?、私のきさきになる気はないか?」


 、、、、、、、、、は、、はいっ?、、、え?、今、、、なんて?


 固まるアシェーラと私、、、

 すると、それを見たラジワットさんが、急に大笑いして


「ハハハハッ 済まん済まん!、冗談だよミユキ、流石に巫女殿を娶る訳にも行かぬ、真面目だな、ミユキは!」


 そう言い終わると、ラジワットは再び大声で笑い出した。


 まったく、、、ちょっと質の悪い冗談だわ、、、、一瞬、本気で考えそうになってしまった。


 幸は、焚き火に照らされながら笑うラジワットの横顔をチラチラと見ながら、未だ鳴り止まない心臓の鼓動を早く抑えなければと一人で焦っていた。

 こんなラジワットの大人の表情を見る度に、幸の心はざわめくのであった。

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