第26話 近衛連隊長

「あなたとご一緒に旅をされているお方は、ラジワット・ハイヤー様は、ハイヤー公爵家のご長男で、いずれは公爵家を継がれるお方です、軍務に関しては将軍家でもありますが、代々宰相を勤められる事が多いですね。ラジワット様は、20代の若さで皇帝陛下直属の近衛連隊長をされていました、、」


 幸は最後の「されていました、、」という過去形の所が気になっていた。

 つまり、ラジワットは現在、軍人ではない、ということだろうか。


「今は、軍人さんじゃないんですか?」


「いや、、、それは、、、、」


 彼の表情からは、明らかにそこが問題である、との含みを持たせていた。

 

「ブラン軍曹、あまり余計な事を話すでない、連隊長の御前ぞ」


 一番リーダー格の剣士が、幸と剣士の会話を遮るように制する。

 そうか、この人はブラン軍曹と言うのか。

 幸は、結局この「軍曹」という階級も、どれくらい偉いのか解らなかった。

 幸はブラン軍曹に、「すいません」と一礼すると、「いえいえ、大丈夫です」というリアクションを返してくれた。

 このブラン軍曹という人も、なんだか良い人のようだと、幸はまず安心した。

 それにしても、このリーダー格の剣士は、ラジワットよりも鋭く、金髪ロングでストレートの頭髪が、何人も寄せ付けない鋭さを感じた。

 それでも、ラジワットと話している時のこの剣士は、なんと穏やかな表情で話をするのだろう、と少し不思議に感じていた。


「ミユキ、紹介しよう、私の元部下たちでヨワイド・カウセルマン中佐、オットウ・ワイセル中尉、エイセイ・ブラン軍曹だ、気のいい奴らだから、ミユキもすぐ仲良くなれるだろう」


 ラジワットは、それはもう嬉しそうに紹介してくれた。

 紹介されたカウセルマン中佐とワイセル中尉も、最初は笑顔だったが、カウセルマン中佐が少し間を置き、冷ややかに幸を睨んだのである。


 、、、、そして、幸は、思った。


 えっ、、、えっえっえっ、、、もしかして、カウセルマン中佐って、、、ラジワットさんに、そう言う感じなわけ?、え、え、え、ちょっと、ちょっと、、、、それってもしかして、気高い感じのラヴ?、、、えーー、私、本物、初めて見た!、キャー、エー、、、キャー!、凄い!、そう言われると、なんかカウセルマン中佐って、なんだか美しいわ!、キャー!


 、、、、幸は、初めて見るプラトニックな、、に、舞い上がっていた。

 そう、幸は、男女の恋には疎い割に、男男の恋には興味深々なのである。


 もう、それは顔に出ていて、それ以降、カウセルマン中佐が再度睨み返しても、幸はまるでお母さんのように温かく見守るのである。

 カウセルマン中佐も、どうしてこの娘は睨むと、慈しむような眼で頬を赤く染めながらこちらを見て来るのかが不思議でならなかった。


 ブラン軍曹も、、、、まるで少年のような笑顔のラジワット大佐、恋人のようなカウセルマン中佐、その二人を慈しむように眺める幸、、、何だろう、これは、と思いながら見ているのである。


「ところで連隊長、、、、軍務へは、いつお戻りで?、皇帝陛下が心配しておられますぞ」


「ああ、、、済まない、もうしばらく旅を続けなければならぬ、それに、第一私は軍を辞したのだ、私事でこれだけ旅をするのだから、軍籍は無いものと考えている、それと、連隊長はもう止めろ、君が今は連隊長であろう」


 カウセルマン中佐の表情は、急速に悲しさを増した。


「何を仰いますか、連隊長はラジワット大佐、ただお一人、私はお帰りを待つだけです、副連隊長で十分ですから」


 事情を理解していない幸でも、この状況がラジワットを引き留めに来た事がよく理解出来る。

 よく睨まれるものの、このカウセルマンという男も、きっと悪い人間ではない、そう思えた。

 ラジワットの笑顔は、少し切ないものに変化していた。

 

「カウセルマン中佐、、、いや、ヨワイド、どうか皇帝陛下を守ってあげてほしい、陛下には君が必要だ、頼む」


 幸は、その時カウセルマンがやっとの思いで作った笑顔の影に、どうしようもない寂しさを感じ取り、少し切ない気持ちになった。

 これだけの人望を集める男性を、幸は今、独り占めしていることも、少し申し訳ないとすら思った。


「こころで幸、さっきの術式は、一体どうしたと言うのだ」


 そして、急に話の矛先は幸に向けられたのである。 

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