第25話 可愛いモフモフ

 幸は、妄想か夢か解らない中で、おかしなビジョンを見ていた。

 さっき助けた小さな魔獣が、更に小さくなって、まるでぬいぐるみのように可愛く幸の膝で大人しくしている。

 それは、本当に真っ白いフワフワの子犬のように可愛らしくて、ペットを飼ったことが無かった動物好きの幸には、夢のように愛おしく思えた。

 小さくなった魔獣は、とても幸に懐いていて、頭を何度も胸に押しつけて甘えてくる。

 その度に、幸は至福の表情を浮かべ、この可愛いモフモフを抱きしめる、、、、そんなビジョン。



「ミユキ、ミユキ!、しっかりしろ!、大丈夫か?」


 、、、、ラジワットさん、、?


 幸は、小さな魔獣に突き飛ばされた事で、どうやら意識が朦朧としていたようだった。

 実はこのとき、先ほどの閃光によって、自分自身も衝撃を受けてしまい、意識を失いかけていた。

 幸は辺りを見回すと、さっきまで膝の上にいた小さな魔獣が、元のサイズに戻って、幸を心配そうにのぞき込んでいた。


 更に幸を驚かせたのは、先ほどの剣士3人が、なぜか膝間付いて頭を下げていたのだ。


「あの、、、これは一体、、、どのような状況ですか」


「よかった、大事にいたならくて、ミユキ、君は先ほど、術式を展開したと、この者達から聞いたが、、、、一体どこでそんな技を修得したんだ?、君は巫女の属性ではないのか?」


 幸は混乱し、ラジワットの話している事が半分も入って来なかった。

 それでも、幸は自分が保護しなければ、この魔獣は殺されてしまうと思い、飛び起きて魔獣の子供を庇おうとした。


「、、、、ミユキ、、、君はこの生き物が怖くないのか?」


「怖いだなんて、、、むしろ、可哀想です、この子、怯えてますよ」


 ラジワットは、少し驚いているようだった。

 そして、剣士のリーダーの方を向き、この件は自分に任せてほしいと話すと、3人の剣士は更に頭を下げ、仰せのままに、と言い、引き下がった。

 そして、そのリーダー剣士は、ラジワットの事を「ハイヤー連隊長」と呼んでいたことを、幸は聞き逃さなかった。


 、、、、連隊長?


 幸はこの分野に全く詳しくは無かったために、連隊長がこの世界でどの程度の役職であるかが理解出来ていなかった。


 そんな状況を、ただ見守るしかない村の住民たち。

 特に、さっきから立ち尽くすアシェーラは、もはや言葉を失い、気絶でもしているかのように、身動き一つしなかった。

 彼女は恐怖に怯えているのではなく、まるで推しのアイドルを目の前にしたかのような恍惚の表情に、頬はピンクに染まっていたのである。


 ラジワットが、これから食事でもしながら話をしようと剣士3人を自宅に誘うが、剣士達は一様に恐れ多いとそれを拒むが、いつになくフレンドリーなラジワットは、半ば強引に3人を自宅に招いてしまったのだ、、、もちろん、状況が飲み込めない幸と魔獣を引き連れて。


「お久しゅうございます、ラジワット様、お元気そうで何よりに御座います」


 とにかく堅苦しい人たちだった。

 さっきは、ハイヤー連隊長と言っていたが、人目のない所では、この剣士は親しみを込めてラジワット様と呼んでいた。

 それでも、名前に「様」付きであり、それは身分の違いを如実に示していたのである。

 考えてみれば、ラジワットが何処の誰で、何歳なのかもよく解っていない。

 幸は、3人の中で一番若い剣士に、それとなく聞いてみた。


「あのう、初めまして、私、幸と申します、先ほどは助けて頂き、ありがとうございました、、、あの、ラジワットさんって、元軍人さんか何かなんでしょうか?」


 すると、その若い剣士は、目を丸く見開き、驚いてこう言った。


「あなたは、それを知らずに連隊長と行動を共にされていたのですか?、、、本当に今日は驚くことばかりだ、、、」


 彼は、一度深呼吸し、幸にラジワットの正体について語り出すのだった。

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