第23話 !、助けて!

「ラジワット様は、この国、オルコ帝国貴族の中でも、一番皇帝陛下に近い家柄とされているわ、この村に立ち寄られる事は公然の秘密で、村中はその話題で持ちきりなんだから」


 そうか、この地方はオルコ帝国と言うのか、と幸は思った。

 帝国、、、そうか、あの雪山で、てっきり自分は越境したものと思っていたが、まだ国内に居たということなんだと。


「フェアリータ様は、ラジワット様の事を、、、どう思ってらっしゃるの?、軍務をお休みされて、今、旅に専念されていると伺ったわ、あなたはどうしてラジワット様のご寵愛ちょうあいを独占出来るの?、やり方があるのなら教えてほしいわ」


 それにしても、ラジワットの人気は凄まじい。

 本来、アイドルなどは結婚を機に人気は一端落ち着くものだが、この世界では、一回の結婚くらいでは、まだまだ独身と変わらないらしい。


「ラジワットさんって、そんなに有名なんですか?」


 女子達は、再びキョトンとした表情で、一瞬動きが固まった。

 

「、、、、そりゃそうよ、この国でも指折りの人気軍人ではないかしら」


 軍人、、、、そうか、ラジワットはそもそも貴族であり軍人でもあるのだ。

 どうりて規則正しく、聖人のようなあの生活態度はそれが要因かと思った。

 そして、これだけ女子がキャーキャーと言うほどの男性が、自分をこれほど大切にしてくれることに、少なからぬ優越感を感じていた。


 そして、幸の中に、おとうさんとしての理想像ラジワットの姿の他に、強い夫としてのラジワット像が加わったような気がする。

 この旅を終えたら、自分はラジワットとは無関係。

 専属メイドにでもしてもらいたいと考えていたが、ラジワットの第2夫人という道もあるのでは、、、、、

 いや、、、、ないな、、私なんかでは、あの人の隣には不釣り合いだ、と幸はそんな妄想を全否定した。


 そんな時だった。

 

「大変だ、婦女子はここに皆いるか?、魔獣が出た、家に帰らずここで暫くじっとしていなさい」


 学校の教員だろうか、慌てて教室に入ってきた。

 小さい学校だから、他の学年の生徒も一部屋にまとまってきた。

 、、、魔獣?、今、魔獣って言った?

 そんなもの、この世界にいるのだろうか?、訳し方を間違えたか?

 猛獣のことかしら、と幸は思っていたが、その、問題の魔獣はゆっくりと学校の校庭に姿を現したのだった。


「まずい、、、、よりによって学校に向かってくるなんて」


 四本足、こんな獣、見たことない、縦に二本の角が生えていて、想像上の生き物、ユニコーンを太く大きくしたみたいな獣、、、

 これが、魔獣?

 それにしても、大きい!

 四匹の群かしら、小さいのは白さが際立って、、、、なんか可愛いな。


 そんな他人事のように思っていた魔獣の群が、こちらの気配に気付いて、突進を始めた。


「ちょっと、こっちに来るわ!、大丈夫なの?、こんな学校の壁で!」


 アシェーラも、かなり動揺している。

 え?、こっちの世界では、日常的に居るのではないの?

 幸がそう思っていると、一番大きな魔獣が角を立てて学校の壁面に突撃した。

 すると、学校自体が大きく揺れると、壁の一部が突き破られたのだった。


「キャー!、怖い、怖いよう!、助けて!」


 校内は、生徒達の悲鳴で溢れていた。

 そして、この魔獣と呼ばれる生き物が、この世界でも非日常であることが幸には理解できた。


 それでも、幸は自分でも何か出来ることがないか、一所懸命に考えていた。

 それは、東京に居た頃では考えられないことだったかもしれない。

 幸は、自身の不幸を「運命」として受け入れてしまうところがあった。

 しかし、ラジワットと出会い、様々な事を教えてもらっている内に、彼女の中にも、自分の力で道を切り開く、という気持ちが芽生えつつあった。

 しかし、剣術を習い始めたこの少女には、それは逆に傲りといえるほど危険な考え方である。

 武道を習い始めた人間は、だれでも一度は自分を過信する、それが幸の場合、この時であった。

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